老後の健康に不安がある…
定年後も健康診断は必要?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 老いとの付き合い方
- うつ病と認知症の特徴と違い
- 健康診断の活用法
- 口腔ケアの必要性
加齢による心身の変化
個人差はありますが、人間の体は加齢と共に骨や血管が脆くなり、肺活量が減り、筋力も落ちるなど全ての臓器が弱って身体機能が低下します。
また耳が聞こえにくい、目が見えにくい、関節が痛い、転びやすいといった高齢者特有の不自由な症状も、身体機能の低下が主な原因です。
ベースが弱くなっているわけですから、病気やケガをしやすく、どこか1か所が悪くなると全身に影響が広がってしまいます。
悪い部分だけ治療すればすぐに健康を取り戻すことができていた若い頃と違い、回復には時間が掛かり、病気やケガで寝込んだことを切っ掛けに自力で食事を取れなくなったり、足腰が弱ってそのまま寝たきりになったりすることも少なくありません。
糖尿病や高血圧症といった一生付き合う病気に罹る人も増えます。
いくつも持病を抱えて、何種類も薬を飲んでいる人も多くなります。
- 脳 … 新しいことを覚えにくくなり、物忘れが増える
- 目 … 視力が低下
- 耳 … 耳が遠くなる
- 口 … 飲み込み辛くなる・歯が抜けやすくなる
- 心臓 … 心臓が弱くなり動悸を感じる
- 呼吸器 … 肺活量が低下し、動くと息切れしやすくなる
- 消化器 … 消化能力が落ちる
- 泌尿器 … トイレが近くなったり、尿漏れを起こしたりする
- 血管 … 血管が硬くなる(動脈硬化)
- 骨 … 骨量が減少し、痛みや骨折を起こす
- 関節 … 靭帯や腱が硬くなり、関節の動きが悪くなる
- 筋肉 … 筋肉の量が低下する・転倒しやすくなる
- 皮膚 … 乾燥し、弾力が低下する
- 神経 … 感覚が鈍くなる
また身体面だけでなく、精神面の健康も無視できません。
特に深刻なのは、老いによる心理的ストレスです。
白髪や薄毛、シワ、曲がった腰といった外見の衰えに加え、今まで出来ていたことが出来なくなり、悲しみや先々の不安が生じます。
また周囲から年寄り扱いされたり、虐待を受けたりすることもあります。
さらに社会の役に立たなくなってしまったという無力感や孤独感、配偶者や同年代の友人の死など、高齢者の周りには、周囲が思う以上に様々なストレスが存在するのです。
こうしたストレスは鬱など心の病に直結するだけでなく、足が痛い、だるいといった体の症状として現れることもあります。
高齢者の場合、ちょっとした症状一つにも、様々な問題が複雑に絡んでいるのです。
健康寿命を延ばす生活習慣
日本人の死亡原因でトップを占めているのは「癌」。
乳癌など一部を除き、殆どの癌は加齢と共に発症者数が増えていく「高齢病」と言えます。
男性の死亡原因を年代別で見ると、40~80代では癌がトップですが、90代以降は癌よりも肺炎で死亡する人の方が多くなっています。
癌以外では心筋梗塞などの「心疾患」や、脳梗塞や脳出血などの「脳血管疾患」が、成人の死亡原因の5位以内に顔を揃えています。
こうした血管系の病気の発症に深く関わっているのが、加齢と共に血管が硬くなる「動脈硬化」。
しなやかさを失った血管は、内側に脂肪などがへばり付いて血液の流れが悪くなり、血の塊(血栓)ができやすくなるのです。
血栓が心臓の血管に詰まれば心筋梗塞を起こしますし、脳の血管が詰まれば脳梗塞を起こし、いずれも命に関わります。
また脳梗塞では、命は助かったとしても手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残る可能性が高く、健康寿命を縮めてしまうことになりかねません。
心疾患や脳血管疾患は、いずれも日々の良くない習慣の積み重ねで発症する「生活習慣病」。発症予防や悪化を食い止める為に、食事や運動の見直しが効果的です。
①食事
- 煙草は吸わない
- よく噛み、バランス良く食べる
- 味や会話を楽しむ
- サプリメントの摂取も(カルシウム・ビタミンDなど)
- お酒を飲み過ぎない
②運動
- ウォーキング
- 体力・体調に合わせてマイペースで
- 転ばないように気を付ける
③休養
- 規則正しい活動と休養で、一日の生活リズムを作る
- 6~7時間眠れば十分(若い時よりも睡眠は必要なくなる)
- お酒に頼って眠ろうとしない
- 長時間の昼寝は避ける
④生き甲斐・交流
- 体力が低下してもできる趣味を見つけておく(読書・囲碁・将棋など)
- 学ぶ姿勢を忘れない(生涯学習)
- 家族や友人と会話を楽しむ
- 地域で社会参加する
中高年と老年期では注意すべきポイントも違ってきます。
例えば、肉や脂肪を控えた粗食が健康に良いとされるのは、心臓病や脳卒中の原因となるメタボ予防の為ですが、メタボ予防が必要なのは、40~60歳代の中高年までの話。
70歳以降は食が細く低栄養になりがちなので、タンパク質や脂肪は必要です。
女性は特に骨が脆くなって骨折しやすいので、意識してカルシウムを摂り、転ばないように注意して下さい。
また、脳と心の健康も大事です。
退屈・孤独という老年期の二大ストレスで悩まないようにするには、周囲の人たちと交流し、楽しめる作業や趣味を見つけておくこと。
楽しいだけでなく脳が活性化するので、高齢化と共に増えている認知症の予防にも役に立ちます。
定年後うつ
鬱病は一般に考えられている以上によくある心の病気です。
鬱病の発症には、
- 負因(鬱病になりやすい遺伝的な背景)
- 本人の性格
- 環境因(経験した出来事・ストレス)
の三つの要因が関わっています。
定年を迎えた時期や、その後の高齢期は特に、鬱病に注意が必要と言えます。
高齢期は人生における喪失の季節で、家族や親しい人との死別や、生き甲斐だった仕事を失うなど、重いストレスをもたらす出来事を数多く経験します。
その上、若い頃に比べてストレスへの耐性が落ちており、社会的な繋がりが減って周囲からのサポートも得にくくなるため、ストレスから鬱病を発症しやすいと考えられるのです。
また、高齢者の鬱病は、若い人とは違う特徴があります。
- 身体症状が強く現れる傾向
- 認知症と紛らわしい症状
鬱病の症状を大別すると、
- 抑うつ気分や強い不安感など気分・感情の変化
- 思考・意欲の減退
- 身体症状
の三つがあります。
高齢者の鬱病は抑うつ気分など鬱病の典型的な症状が乏しく、身体症状が強く現れる傾向があるそうです。
本人が体の不調と思い込んで病院を転々としたり、周囲が「年だから仕方がない」と耳を貸さずにいたりしている間に、鬱病が悪化するケースも珍しくありません。
- うつ病が疑われる症状 -
- 憂うつ
- 気分が重い
- 気分が沈む
- 悲しい
- イライラする
- 強い不安感に襲われる
- 元気がない
- 眠れない
- 集中力がない
- 好きなこともやりたくない
- 細かいことが気になる
- 大事なことを先送りにする
- 物事を悪い方へ考える
- 決断が下せない
- 悪いことをしたように感じて自分を責める
- 死にたくなる
- 食欲がない
- 便秘がち
- 下痢がち
- 身体がだるい
- 疲れやすい
- 性欲減退
- インポテンツ
- 頭痛
- 頭が重い
- 動悸
- 息苦しい
- 胃の不快感
- 消化不良
- めまい
- 目のかすみ
- 異常に喉が渇く
- 残尿感
- 排尿困難
- 関節痛
- 神経痛
- 表情が暗い
- 涙もろい
- 反応が遅い
- 落ち着きがない
- 飲酒量が増える
高齢者の鬱病では、物忘れが多くなる、動作や反応が極端に鈍くなる、これまで関心のあったことに対して興味を失うなど、認知症と紛らわしい症状がしばしば見られます。
鬱病と認知症には特徴の違いがいくつかありますが、鬱病と認知症の合併や、認知症の一症状として抑うつ状態が現れるなど、専門医でもなかなか見極めが難しい症例もあるそうです。
- うつ病と認知症の比較 -
うつ病 | 認知症 | |
記憶力 | 昔のことも最近のことも思い出せない | 昔のことは覚えている |
発症の切っ掛けと時点 | 切っ掛けがあり、いつ発病したか分かる | 切っ掛けはなく、発症時点も分からない |
症状の進み方 | 急に進む | ゆっくり |
性格 | 几帳面・生真面目 | 特に傾向は無し |
知能低下 | 激しく訴える | 特に訴えない |
作業 | できない | 指示されると努力する |
感情 | 抑うつ | 変化しやすい |
社交性 | 無い | 表面的な社交性 |
鬱病は決して珍しい病気ではなく、心の風邪と称されることもあります。
しかし、風邪を放置すると肺炎で命取りになることもあるのと同じで、鬱病も重症化すると自殺など深刻な事態に繋がりかねません。
主な症状を上記に挙げたので、自分や周囲の人が少しでも「おかしいな」と思ったら、早めに精神科や心療内科などに相談することが大切です。
過度の飲酒は睡眠の質を低下させ、鬱を悪化させるので要注意です。
定年後の健康診断
年を重ねるに連れて臓器は老化し、病気になるリスクは確実に増加していきます。
病気の兆候を早い段階で発見するには、定期的な健康診断が欠かせません。
現役時代は年1回の職域健診を受ける機会がありますが、定年後は自分で健診を受けなければなりません。
定年後の健診手段は、
- 自治体の健診・検診(特定健診・がん検診)
- 人間ドック(総合健診・任意型健診)
があります。
特定健診はいわゆるメタボ健診で、血圧や血糖、脂質などの検査結果を基に、生活指導で生活習慣病の発症予防をすることに重点が置かれています。
そのため、癌に関わる検査はなく、超音波やCTなどの画像検査も含まれていません。
がん検診は、自治体によって異なるので確認が必要ですが、大腸癌の為の便潜血検査や子宮癌の細胞診などを無料又は低料金で受けられるものです。
異常が見つかれば、医療機関で大腸内視鏡や腹部超音波など更に詳しい検査を受けることになります。
一方、人間ドックは、病院やクリニック、健診施設などが独自に実施している健康診断です。
生活習慣病とガンを中心に全身の様々な検査を一度に受けられる「効率の良さ」が最大のメリットです。
日本総合健診医学会によって決められている基本的な検査は住民健診(自治体の健診)に近いものですが、超音波検査なども含まれ、手厚い内容になっているのが特徴です。
オプション検査のラインアップは施設によって違いがありますが、各臓器の腫瘍マーカーやCT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴断層撮影)、PET(陽電子放射断層撮影)など様々。
脳ドック、認知症検診などもあり、自分が気になっているところを重点的に検査してもらえます。
但し、費用が高いのが難点。
同じ検査でも施設ごとに違いがありますが、基準の検査だけでも数万円。
PETが入ると十数万円になることも。
住民健診(自治体の健診)と人間ドックのどちらを選ぶべきなのか、オプション検査をどこまで受けるべきなのかは迷うところ。
自分だけでなく家族の人生も背負っている子育て中や働き盛りであれば、コストが掛かっても積極的に病気を見つけて治療をしていくことも必要。
しかし、責任が軽くなったシニア世代になったら、健康診断にそこまでエネルギーやコストを掛けなくても…という考え方もできます。
持病があって既に色々な検査を定期的に受けているという人も多いでしょう。
そこで、住民健診(自治体の健診)で基本的な健康状態をチェックし、かかりつけ医に相談しながら必要に応じて検査を加えていくのも一手です。
そして、健診の結果をそのままにしないことも大事。
指示された精密検査や経過観察を受けなかったり、生活指導を聞き流したりせず、しっかり健康管理に役立てて下さい。
目と耳の改善
加齢による体の変化として、多くの人が先ず実感するのが「視力」ではないでしょうか。
近くや小さい文字が見えづらくなる「老眼」は、個人差はあるものの40代から。
ピントを調節する機能が低下する老化現象で、じわじわと進行します。
眼鏡でしっかり視力を矯正すれば見えるようになりますが、目を細めて何とかピントを調節しようとしたり、度数が合っていない間に合わせの老眼鏡や虫眼鏡で凌いだりしている人も少なくありません。
今は近距離用の老眼鏡に加え、遠近両用眼鏡や中近両用眼鏡など、たくさんの種類のレンズが登場しており、自分の視力や生活に合ったものを選べます。
好みのデザインで眼鏡を作り、よく見える生活を取り戻しましょう。
また60歳を超えると発症者が増える「白内障」も、見えを悪化させる老化現象の一つ。
レンズの役割を果たしている水晶体が濁るため、視界に霧が掛かったようになるのです。
白内障は内服薬や点眼薬で進行を抑える治療の他、濁った水晶体と、人工の眼内レンズを入れ替える手術をすればクリアな視界を取り戻すことができます。
手術といっても負担が少なく、日帰りでもできるので、高齢者でも安心です。
高齢期には他にも、網膜の中心部(黄斑)の障害で物が歪んで見える「加齢黄斑変性」や、視神経のトラブルで視野が狭まる「緑内障」、糖尿病が原因で視力が低下する「糖尿病性網膜症」といった目の病気に罹りやすくなるので、「見え方がおかしい」と感じた時はすぐに眼科医を受診して下さい。
老化現象は耳にも表れ、聞こえが悪くなります。
加齢性難聴は小さい音が聞きづらくなるだけでなく、電子音のような高い音や、話し言葉では特に子音が聞き取りづらくなるのが特徴で、両耳に同じように症状が表れます。
加齢性難聴は治すことはできませんが、補聴器で聞こえを改善することができます。
補聴器を快適に使う為には、現在の聞こえや生活に合った商品を選ぶことが大事。
また使い始めは、音に慣れていく為の定期的な調整が欠かせません。
耳鼻咽喉科医の中でも「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が認定した補聴器相談医」にアドバイスを受けると良いでしょう。
目や耳の機能が低下していくのは仕方のないことですが、眼鏡や補聴器などである程度補うことが可能です。
便利な道具を上手に活用し、快適に毎日を過ごしましょう。
口腔ケア
しっかり噛む為には歯が必要ですが、平成元年から始まった80歳で20本の歯を残そうという「8020運動」が実を結び、自分の歯を残せる人は着実に増えています。
また歯を失っても入れ歯やインプラントで、噛む機能を補うこともできるようになりました。
とは言え、年を取ると共に歯は削れて弱くなり、歯を支えている歯茎などの歯周組織も細菌に感染しやすくなって歯周病の人が増えます。
さらに細菌の増殖や口臭を抑えてくれていた唾液の分泌が減るなどして、口の中の環境は悪化してしまいます。
こうした厳しい環境の中で歯や入れ歯を良い状態で保つには、口腔ケアが欠かせません。
朝晩丁寧に歯磨きをするだけでなく、定期的に歯科医院に通い、自分では取り切れない汚れの清掃や入れ歯の調整などをしてもらいましょう。
口の中を綺麗にすることで、誤嚥性肺炎や糖尿病など多くの病気を予防できることも分かっています。
まとめ
日本は戦後、高度経済成長と共に科学技術も著しく発展した結果、かつては死に至っていた多くの病気を治療可能にしてきました。
平均寿命が大幅に延長したのは、こうした医療の進歩による部分も大きいでしょう。
iPS細胞や認知症の進行を遅らせる薬の開発などが進み、老いですらいつか科学の力で治療できるのではないかと勘違いしてしまいがちですが、完全に老いを克服できるものはありません。
老いは治るものだという希望を持ち続け、不具合を元に戻そうと躍起になると、普段の生活において失望することの方が多くなってしまいます。
認知症に限らず健康に自信がある人でも、年を重ねるに連れ、不具合が出てくるのは避けられません。
「老い」は誰にも訪れる体の機能の低下。若い頃と違うことを肝に銘じ、老いを受け入れ、コントロールしながら付き合っていくのが良さそうです。
気楽に楽しく生きることが、健康寿命の延長に繋がっていくのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。