退職金はすぐに運用してはいけない?
退職金の運用で失敗しないポイントは?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 退職金はすぐに運用するべきか否か?
- 退職金を運用する前のチェックポイント
- 退職金を運用する際の心構えと注意点
退職金をもらったら?
退職金をもらったら、すぐに運用しないといけないと思っていませんか?
まとまった額のお金を手にすると、自分がお金持ちになったような高揚した気分で浪費してしまう人や、老後の生活を心配して慣れない投資に大金をつぎ込んで損失を出す人がいます。
しかし、リタイア後のセカンドライフを支える大切な定年後資金を減らさない為には、無計画に資産運用を始めてはいけません。
老後の支えとなる退職金も、運用法を間違えると増やすどころか大きく元本割れといった事態に陥ります。
最初の投資や運用で失敗しては元も子もありません。退職金の運用で失敗しないポイントを解説します。
定年後の人生設計を考える
一般的なサラリーマンの場合、退職金を手にした時が恐らく、人生で最も金融資産残高の山が高くなる時でしょう。
本来なら、豊かなセカンドライフに心躍らせる時期です。
しかし、今や「人生80~90年時代」と言われ、65歳で定年退職をしても、残りの人生は15~25年もあります。
このため、多くの人が老後資金に不安を抱き、退職金を含めて、これまで築いてきた金融資産残高の山を崩さず、少しでも有利に運用しなければならないという強い切迫感、強迫観念に囚われているようです。
しかし、「お金を増やさなければいけない」という焦りに押されて、退職金をすぐに運用に回すのは禁物です。
リタイア後の運用資産のスタンスは、
- 何をしたいのか
- どういう生活をしたいのか
- それを実現するにはいくらお金が必要なのか
によって決まります。
つまり、「リタイア後の人生設計」と「お金の使い方」を最初に考えなければいけないのです。それによって、投資する金融商品も変わってきます。
極端な話、定年後の生活に余りお金が掛からないなら、わざわざリスクを取って投資しなくても良いのです。
こうしたことを冷静に考える為に、退職金をもらったら、先ず定期預金に入れ、「今すぐ運用しなければいけない」と思い込んでいる頭を冷やしましょう。
セカンドライフのお金の使い方が決まるまで、預入期間3か月又は6か月、或いは1年の定期預金にしておくことをお勧めします。
定期預金に入れている間に、この先の人生をどう過ごしたいのかを考え、じっくり運用先を吟味しても遅くはありません。
投資の知識も無いのに金融機関から勧められるまま、金融商品に大金を投じてしまうことも、浪費も避けられるでしょう。
定年後の運用・投資プラン
退職金をもらっても、すぐには運用せず、預入期間が3か月、6か月、1年程度の定期預金に入れておきますが、その間にリタイア後の人生設計(お金の使い方)が決まったら、いよいよ運用のスタートラインに立つことになります。
もちろん、ここで闇雲に金融商品を買ってはいけません。
退職金の運用は長期間にわたりますので、年代別資金の運用スタイルについて戦略を描きましょう。
退職金を含めた手持ちの定年後資産は、60代、70代、80代以降と、年代別に三つの財布に分けて考えることが大切です。
比率はその人のライフプランによって違ってきますが、目安としては、金融資産全体の45%程度を60代用、30%程度を70代用、25%程度を80代以降用に振り分けると良いでしょう。
現役世代とリタイア世代では、お金の流れも運用スタイルも変化します。
現役時代は、マイホーム購入や子供の教育費など、まとまったお金が必要となるライフイベントの為に資金を貯め、増やす「ストック重視」の運用となります。
一方、定年後の運用スタイルは、お金を増やしていくストック重視から、現役時代に積み上げてきた預貯金を少しずつ取り崩しながら収入(年金など)を得ていく「キャッシュフロー重視」の運用になります。
60代はまだまだ消費の多いアクティブ世代ですが、70代、80代は体力的に活動範囲も狭くなり、行動力のある60代と比較して、余りお金を使わなくなります。
従って、支出が多い60代は取り分け、運用で失敗してやりたいことができなくなるわけにはいきませんから、定期預金や個人向け国債など元本割れしない安全確実な運用商品、毎月又は定期的に収益を得られる金融商品などが向いています。
様々なライフイベントに対応できるように、安定した運用をしながらお金を使っていくイメージです。
70代用資金に振り分けた分は、実際に使うのは10年以上先になりますので、ある程度のリスクを取っても良いかもしれません。
60代用資金の運用先の金融商品に加え、お金を増やす為の投資型の金融商品の活用も視野に入れても良いでしょう。
80代以降用資金は、実際に使うのは20年以上も先になります。
70代用資金と基本的に同じ考え方で運用して良いのですが、一部でより積極的な運用をしても良い位置付けになります。
金融商品を大まかに分類すると次のようになります。
- ローリスク・ローリターン … 定期預金・債券投資・純金積立など
- ハイリスク・ハイリターン … 株式投資・投資信託・FX・先物取引・仮想通貨投資など
金融商品のリスク
資産運用や投資と言うと「儲けること」に目が向かいがちですが、投資で成功するには、「リスクを抑えること」が極めて重要になってきます。
ところで、「リスク」とはいったい何でしょうか。
誤解している人も多いのですが、運用や投資の世界でのリスクとは、「危険」という意味でも、「損をする可能性」という意味でもありません。
リスクは「価格変動の大きさ(ブレ)」のことを指します。
投資の大原則は、ハイリスク・ハイリターン。投資の世界には、「リスクが少なく、リターンが大きい」という商品は存在しません。
つまり、高い収益を上げる可能性のある金融商品(=価格変動リスクの高い商品)は、価格が大きく上がる可能性も下がる可能性もあるということです。
逆にリスクを小さくすると、得られるリターンも小さくなります。
リスクと上手く共存する戦略を持つのが投資の大前提となります。
資産運用における代表的なリスクには、以下のようなものがあります。
- 価格変動リスク … 株価など、価格が予想とは違う値動きをするリスク
- 金利リスク … 債権の価格変動リスクのこと。債権は、市場金利が上昇すると価格が下落し、市場金利が下落すると価格が上昇する性質がある
- 為替リスク … 為替相場が予想とは違う動きをするリスク
- 信用リスク … 投資先の財務状況悪化により、元本や利息が受け取れないリスク
- 流動性リスク … 金融商品などを現金化する際に換金できないリスク
- カントリーリスク … 国の政治・経済情勢から見たリスク
どのリスクを受け入れられるかで投資対象が決まってきます。
リスクの意味を理解できたとしても、人それぞれリスク許容度は異なります。
先ずは自分のリスク許容度がどの程度なのかを把握し、それに合った投資をすることが大事です。
投資の世界には、「ローリスク・ハイリターン」という商品は存在しないことを覚えておきましょう。
リスクを軽減する投資方法
資産運用や投資で成功するには、「リスクを抑えること」が非常に重要です。
このリスクをできるだけ抑え込む方法として基本になるのが、「分散投資」と「長期投資」です。
分散投資
分散投資とは、文字通り「分散して投資」をすることです。
値動きが異なる投資先に分けて投資する「投資対象の分散」と、購入時期・投資期間など「時間の分散」があります。
分散すればするほど、価格変動のブレは抑え込まれます。
- 投資対象の分散 … 一つの資産に集中して投資していると、その資産の価値が下がった時に大きな損失が発生する可能性がありますが、幾つかの資産へ分散して投資しておくと、一つの資産が下がっても大きな損失は避けられます
- 時間の分散 … これが積立投資です。但し、積立投資は長期間の投資で効果が出るものなので、短い期間では、分散投資の大きな効果は期待できない可能性があります
長期運用
長期投資は、短期投資よりも収益が安定化します。
株式など値動きの大きな投資対象は、投資期間が長くなるほど「損益のブレ」は大きくなりますが、「収益率のブレ」は投資期間が長くなるほど小さくなり、平均値に近付くのです。
時間が大きな味方になります。
短期的な値動きに振り回されることなく、長期的な値上がりを待つ長期投資で臨みましょう。
長期投資が有効に働くのは、将来が期待できる投資先だからこそです。どんなものでも長く持っていれば上がる、というわけではありません。
時代の変化や状況に合わせて投資商品を機動的に売買するのも大切な戦略です。
投資信託
分散投資によるリスク軽減という点で、理に適っているのが「投資信託」です。
投資信託は、投資家から集めた資金を運用の専門家であるファンドマネージャーがまとめて運用する金融商品です。
「投信」や「ファンド」とも呼ばれます。
特徴として、
- 1万円程度の小口から買える
- 分散投資ができる
- プロが運用する
が挙げられます。
一般の人が投資を始める時に、最も手軽に利用できる商品と言えます。
投資先は、日本の株式・債券、海外の株式・債券、不動産など。
どこに投資するかにより、様々なタイプがあります。
それぞれの投資信託の運用方針は、目論見書に記載されていますから、買う前に必ず確認しましょう。
リスク資産の見直しと出口戦略
投資や運用は、金融商品を買っただけで終わるものではありません。
少なくとも1年に1度は「資産の棚卸し」を行い、自分の金融資産の状況を定期的に把握しておきましょう。
- 金融資産の棚卸し表の例 -
商品名 | 金融機関名 | 名義 | 預入金額 | 金利 | 満期 | 備考・合計 |
普通預金 | ||||||
定期預金 | ||||||
個人向け国債 | ||||||
株式 | ||||||
投資信託 | ||||||
金融資産の合計額 |
定期預金や債券などには満期や満期償還日が設定されています。
満期が近付いていることを資産の棚卸しで気が付けば、満期を迎えたお金を次はどのように運用するかを早めに検討する切っ掛けにもなります。
定年後の資産運用も、20年、30年にも及ぶ長期運用になりますが、その間、ただ放っておいたり、他人任せにしたりしてはいけません。
購入した金融商品を放置したままにしておくのはダメ。定期的に「資産の棚卸し」をしましょう。
金融商品の取引の終え方、いわゆる「出口戦略」についても考える必要があります。
投資の世界では、出口戦略は主に「売却」を意味します。
そして、70代が近付いてきたら、資産全体を総点検し、元本が保証されていない「リスク資産」(株式などの投資型商品)の大幅な見直しも行いましょう。
リスク資産の資産配分の割合については、決まったルールはありません。
一般的には、年齢を重ねるごとに徐々に割合を減らしていくのが良いとされます。
よく言われるのが、「100-年齢」です。この考え方に基づけば、60歳であれば、最大で資産の40%までリスクを取っても良いことになります。但し、これはあくまでも目安の一つです。
年代別に考えても、その人のライフプランによって違ってきますが、リスク資産は徐々に減らしていくのが一般的です。
- 60代 … 預貯金、債券60%・株式、投資信託など40%
- 70代 … 預貯金、債券70%・株式、投資信託など30%
- 80代 … 預貯金、債券80%・株式、投資信託など20%
タイミングを上手く捉えて、リスク資産を少しずつ利益確定し、預貯金や個人向け国債など元本割れしない安全確実な運用商品に預け替えていくと良いでしょう。
利益確定とは、購入した金融商品が買った時よりも値上がりしたところで売却し、現実に利益を確定することを意味します。含み益の状態で保有していても、相場の動き次第では含み損に転じる可能性もあります。利益を確定して初めて、儲けを手にしたと言えるのです。
ただ、ここで問題になるのが、リスク資産の「売り時」です。
定期預金や債券などには満期や満期償還日が設定されていますので、満期を迎えた後に預け替えれば良いという目安があります。
しかし、株式や投資信託などの投資型商品の多くには満期がなく、価格が変動する中で、自分の判断で売却時を見極めなければいけません。
底値で買って最高値で売るのを続けるのは、プロの投資家でも不可能です。欲を出し過ぎず、程好い利益で良しとする考え方が大切です。
もちろん、70代、80代でリスク商品に投資をしてはいけないということはありません。
大切なのは、生活費まで足りなくなるような損失を出す無理な投資はしないことです。
投資が投機にならないよう、リスク商品に投資するにしても、過剰なリスクを取らないように注意しましょう。
トラブルに巻き込まれたら?
理解できない金融商品は利用しない、それが大原則。
ですが、金融機関との間でトラブルを抱えてしまうこともあるかもしれません。
そんな時に利用したいのが、金融ADR制度です。
ADRとは、Alternative(代替的)、Dispute(紛争)、Resolution(解決)の頭文字で、「裁判外紛争解決手続き」とも言います。
例えば、店頭で聞いた説明と違う、元本割れするとは思っていなかったのに大損をしたなど。
納得がいかず、金融機関と話し合いをしても解決しない時、いきなり裁判ではなく、迅速・簡便・中立・公正な立場で紛争解決に当たってくれるのが金融ADRです。
保険、銀行など金融機関の業務ごとに、紛争解決機関として指定を受けた団体があります。
金融機関のサイトなどを見ると、その銀行が契約している金融ADR機関が記載されています。
原則、利用料は無料です。
但し、金融ADRは消費者と金融機関との「認識の違い」などを解決しようとするもの。詐欺など事件性があるトラブルについては、警察や国民生活センターに連絡を。
まとめ
退職金を一時金で受け取ると、つい運用しなければと考える人が多いようです。
また、どのように管理したら良いのか、戸惑う人もいるようです。
数百万~数千万円にもなる大金を、普通預金に置いたままではもったいない、世の中にはもっと良い商品があるようだと思ってしまうわけですね。
しかし、高収益を上げることだけが運用ではありません。安定的な商品に預けて、資金を守ることも立派な運用です。
また、運用を始める前に、退職金の使い道について考えることが大事です。
残っている住宅ローンを清算する、自宅のリフォーム費用に充てる、65歳以降の生活費の取り崩し用に取っておくなど、いつ頃、幾らくらい、どのように使うか、先ず計画を立てましょう。
退職金の使い道について予算が決まったら、それぞれどのような金融商品を利用するか考えます。
使う時期が近いものは「安全確実」なものに。
5~10年先に使う予定なら、安全性を確保しつつ、「預金金利プラスα」を狙える金融商品も選択肢。
10年以上先なら、「リスクはあっても高利回り」の金融商品を選ぶことも考えられます。
定期預金や個人向け国債は、収益が低い代わりに安全性が高いのが特徴。
近いうちに使うことが決まっている資金の運用先としてはもちろん、10年以上先に使う資金であっても、資産全体を安定させる為に一定の割合は持っていたいものです。
逆の特徴を持つのが、外貨建て商品、投資信託、株式など。
高い収益を期待できる代わりに「元本割れ」のリスクもあります。
投資の大原則は、「ハイリスク・ハイリターン」。
リターンが高いものは、必ず何らかのリスクを持つということです。
元本割れは絶対に避けたいなら、「投資をしない」選択肢もありです。
リスク商品での運用には、様々な注意点や求められる知識があります。
「自分は投資に必要な勉強に興味が持てない」「運用環境の変化をキャッチするのは向いていない」「1円でも下がるとドキドキする」と感じるのであれば、「投資はしない」という選択肢が正解です。
投資に失敗して後悔するより、利息は少なくても安全確実な金融商品で運用し、心穏やかなリタイア後を過ごしましょう。
- 退職金の使い道を予算化しておく
- 自分がどれだけリスクを取れるかをはっきりさせる
- 無防備に売り手に相談しない
- 自分が理解できない仕組みの商品はやめる
- 退職金を狙った悪徳商法にも要注意
- 投資をしないという選択肢もある
自分が購入しようとしている金融商品のリスクはどのようなものか、リスクに耐えられるか、どうして利益が出るのか仕組みを理解しているか。
運用の前に押さえておきたいチェックポイントを上にまとめました。
慌てることはありません。一部をリスク商品で運用するにしても、退職金をもらってすぐでなくても、しっかり知識を身に付けてから、自分自身のタイミングで始めれば良いのです。
退職金など高齢者が持つ資産を狙い、詐欺まがいの契約でお金を騙し取る「悪徳商法」にも気を付けましょう。
元本保証・高利回りを謳い文句に投資資金を騙し取る「利殖商法」の被害に遭う人が後を絶ちません。
「絶対に儲かる」などという言葉を鵜吞みにしてはいけません。そもそも投資は「ハイリスク・ハイリターン」が原則。ノーリスク(元本保証)なのに、ハイリターン(高利回り)は、あり得ないことなのです。
おかしいなと思ったら、警察を始め、国民生活センター、法テラスなどに速やかに連絡を取り、相談しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。