借金の相続で家族を苦しめたくない…
借金も引き継ぐの?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 目に見えない借金とは?
- 連帯保証債務について
- 処分できない財産があると?
- 負債相続で家族を苦しめない方法
はじめに
相続とは、死亡した人の財産が、その人と一定の身分関係にある人に移転することです。
死亡した人を被相続人、一定の身分関係にある人を相続人と言います。
財産というと、不動産や現金、銀行預金、株式といったものが思い浮かびますが、このような「プラスの財産」ばかりが財産ではありません。
借金やローン、未払金など、貰ってあまり嬉しくないものも財産の一部です。
相続するというのは、このような「マイナスの財産」も含め、一切の財産の権利義務を引き継ぐということです。
プラスの財産は相続するが借金は要らない、というわけにはいきません。
潜在的な負債
負債とは、分かりやすく言えば「借金」のことです。
但し、必ずしも目に見える借金だけが負債ではありません。
例えば、住宅を購入する為に借りた住宅ローンなどは、本人も借りたことが明確に分かっていますし、残高がいくら残っているかも簡単に調べることができます。
これは「目に見える借金」です。
では、「目に見えない借金」とはどういうものでしょうか。
例えば、誰かの借金の保証人になった場合の「保証債務」です。
借金をした本来の債務者がきちんと返済を続けていれば、何の心配もありませんが、返済が滞るようなことになると、保証人に返済の請求が回ってきます。
保証人は、債権者と保証人との間の契約です。借金した人が返済できない場合には、保証人が支払わなければなりません。
その意味で、保証債務は潜在的な借金のようなものと言えます。
また、企業の経営者や役員であれば、株主代表訴訟で経営責任を問われ、賠償を求められる場合もあり得ます。
これも潜在的な借金の一つと言って良いでしょう。
中小企業では、社長や役員の自宅が会社の借金の担保になっているケースも多々見受けられます。
会社が業績不振となり、返済できなくなれば、自分で自宅を売却して返済資金を作るか、競売に掛けられるのを待つことになります。
この他、相続税も「いつかは払わなければいけないお金」という意味で、税金とは言うものの一種の負債と考えられるかもしれません。
ところで、保証債務など「借金のようなもの」は、厄介なことに、相続開始の時点で必ずしも「返済しなければならない債務」になっているとは限りません。
時には、そういったものの存在すら知らないまま年月を重ね、突然、債権者が目の前に現れて慌てふためく、といったことも珍しくないのです。
そして、保証した本人が亡くなっていても、債権者は容赦してくれません。
保証債務は法律上、相続人に引き継がれることになっているからです。
相続を成功させる為には、目に見える借金だけでなく、このような潜在的な借金についても、予めどれくらいあるか調べておく必要があるのです。
連帯保証債務
連帯保証人
連帯保証人には、債務者が何らかの理由で債務を履行できない場合に、債務者に代わって債務を履行する義務があります。
債権者は、債務者からの取り立てが困難だと判断すれば、いつでも連帯保証人から取り立てることができます。
つまり、連帯保証とは自分が借金するのと殆ど同じ重みを持っているのです。
知人や友人から「絶対に迷惑は掛けないから、連帯保証人になってくれ」と頼まれ、軽くハンコを押してしまう人が少なくありませんが、連帯保証とは、非常に重い責任を負わされるのだということを忘れてはなりません。
連帯保証をしていることが、本人が生きている間か、死亡した直後に分かれば、まだ手の打ちようもあります。
財産と債務を比較して、債務の方が大きいようなら、相続を放棄してしまえば良いからです。
借金のある人が死亡した場合、その借金は相続人が引き継ぐことになります。しかし、これでは可哀そうであり、そのため民法は「相続放棄」の制度を設けています。
困るのは、相続放棄の期間(相続開始を知ってから3か月)が過ぎてから、債権者が現れたケースです。
債権者の側に立てば、連帯保証人が死亡した直後に取り立てに行って、相続放棄されてしまうと、債権が回収不能になります。
そこで、わざと3か月待ち、相続放棄がないことを確認してから、おもむろに取り立てに行く場合もあるようです。
このような連帯保証の相続は、負債の相続としては、最も質が悪いものと言えます。
相続財産が債務よりも多ければまだしも、財産という程のものもない場合は悲惨です。
何しろ、自分たちの身に全く覚えのない借金を、身を削って返済しなければならないのですから。
こうなってしまったら、本来の債務者を見つけて返済を促すか、その債権者と話し合って少しでも減額して貰うくらいしか手はありません。
尚、連帯保証も通常の債務と同様、各相続人が法定相続分の割合で引き継ぐのが原則となっています。
相続放棄
このように、誰かの債務の連帯保証をし、そのことを子に伝えたり、何かに書き残したりしないまま本人が亡くなると、残された遺族は大変な苦労をすることになります。
そうならない為には、生きているうちに、負債がどれだけあるのか、連帯保証がどれだけあるのかを、誰が見ても分かるように書類などできちんと残しておくことが大切です。
そして、相続人は、相続財産を超える負債の存在を知ったら、直ちに相続放棄の手続きを行います。
この時、注意していただきたいのは、相続放棄は子だけでなく、被相続人の親や兄弟も行う必要があると言うことです。
相続人である配偶者や子全員が相続放棄をすると、法律上、それらの配偶者、子が最初から居なかったものと扱われ、今度は親が相続人になります。
親も相続放棄をすると、次は兄弟姉妹が相続人になります。
ですから、相続放棄は親族全員が行う必要があるのです。
限定承認
3か月という短い期間では、資産と債務のどちらが多いのかはっきりせず、相続放棄すべきかどうか判断が付かないこともあるでしょう。
こんな時は家庭裁判所に申し立てをし、3か月の熟慮期間を伸長してもらうことができます。
或いは、限定承認を検討してみるのも一つの方法です。
限定承認とは、相続財産の範囲内で債務を弁済し、もし財産が残ったらそれを相続する、というものです。
どんなに債務が大きくても、相続財産を超えて弁済する必要はありません。
ただ、相続財産の大半が土地である場合は要注意。限定承認を使うと、仮に土地を売らずに弁済が済んでも、時価で土地を売って弁済したと見なされて、譲渡所得税が掛かってきてしまうのです。
従って、限定承認を使うかどうかを決める際には、この譲渡所得税まで考慮しておく必要があると言えます。
また、相続放棄・限定承認共に、相続開始を知ってから3か月以内に手続きを行わなければなりません。
一度、放棄すると取り消すことは先ず認められませんから、相続財産の調査は素早く綿密に行う必要があります。
さらに、限定承認は相続人が共同で行いますので、相続人全員の合意が必要です。
一人でも反対者がいれば、限定承認は行えません。
処分できない財産
相続が始まると、故人の財産を調べ、プラスの資産の相続税評価額から負債額を引いた価額に対して相続税が課せられます。
相続税を払うのに十分な現金を作れれば何も問題ありません。
現金が難しければ、物納という方法もかなりポピュラーになってきました。
ところが、中には、財産的価値があるとされながら、売却して現金化することが難しく、物納もできないものがあります。
例えば、中小企業のオーナーが、自分の会社に対して行なっている貸付や手持ちの自社株。
これらも相続税の対象になります。
かと言って、これらを回収して相続税の納付資金として使うことは困難なことが多いでしょう。
また、古いアパートを経営している場合も問題です。
いくら評価減の特例があるとは言っても、都市部ではかなりの相続税が掛かってきます。
こういう古アパートでは、住民も長く住んでいる方、一人暮らしのお年寄りなども居る筈です。
「更地にして売却しますから、立ち退いて下さい」とは、法律的にも人道的にもなかなか言えるものではありません。
このままでは売却できず、物納も困難。
しかし、相続税の納付期限は迫ってきます。
仕方がないので、自分の自宅を売却して納税費用を作ることにした…。
このように、財産と評価されながら、換金しにくいものが多い場合、いくら評価額の上ではプラスの財産が多くても、相続には大きな困難がのしかかってくるのです。
まとめ
愛する家族を借金地獄に陥れない為にも、今できることはすぐにしておくべきです。
先ず自分の財産、負債をリストアップし、その時価と評価額を書き出しておきましょう。保証人になっている債務があれば、それも忘れずに書いておくこと。
財産の中で、逆ザヤになっているアパートやマンションなどがあれば、早めの処分も考えなくてはいけません。
銀行と相談して借入金の返済スケジュールを作り直しましょう。
その際、保証人を要求されるかもしれませんが、新しい返済スケジュールでも破綻の可能性が残るのなら、絶対に自分の家族や親戚を保証人にしてはいけません。
愛する家族を苦しませるよりも、借金を棺桶に入れてあの世まで持って行き、家族には相続放棄させましょう。
もし、既に家族を保証人にしていたり、家族に相続放棄されるのが嫌だという人は、いつ自分が死んでも借入金が全額返済できるように生命保険に入っておきます。
これには、保険金額が年々下がっていくタイプの保険(逓減型保険)が有効です。
財産を全部処分しても返済が不可能なほど負債があるのなら、相続人全員が相続を放棄する以外に手はありません。
そうなる恐れがある場合には、「自分が死んだら、相続放棄してくれ」と家族に話しておきましょう。
住み慣れた自宅などを手放すのは辛いという人も居るでしょうが、借金取りに追われ続けるよりは、無一文の方がまだマシです。
いずれにしても、借金を曖昧にしたままあの世へ行けば、残された家族が大変な苦労をするのだということは忘れてはいけません。
借金は自分一人で抱え込むべきです。時には金融機関と戦うことも必要。それが家族を守る唯一の道なのです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。