相続財産の評価方法とは?
相続税の掛からない財産もあるの?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 相続税の非課税財産
- 相続財産の評価方法
相続税が掛かる財産と掛からない財産
相続税の課税財産
相続税の対象となる財産は、原則として「被相続人から引き継いだもの全て」です。
金融資産や不動産はもちろん、未収の家賃や貸付金、著作権など、経済的価値が認められるものは全て対象となります。
また、相続財産ではないけれど、被相続人の死亡を原因として相続人が受け取った財産を「みなし相続財産」といい、これらも相続税の課税対象になります。
代表的なものには、被相続人が保険料を負担していた「死亡保険金」や「死亡退職金」などがあります。
被相続人の死亡によって受け取った死亡保険金は、生命保険会社から支払われており、被相続人の財産を引き継いだわけではありません。
とは言え、保険料を被相続人が負担していた場合、実質的には相続財産と変わらないとされ、相続税法上は相続財産とみなして課税されます。
尚、みなし相続財産に対して、被相続人から相続又は遺贈により受け取った財産を「本来の相続財産」と言います。
- 主なみなし相続財産 -
- 生命保険金 … 生命保険契約や損害保険契約に基づいて被相続人の死亡により支払われる保険金で、被相続人が保険料を負担していたもの
- 死亡退職金 … 被相続人の死亡により受け取る退職手当などで、死亡後3年以内に支給が確定したもの
- 生命保険契約に関する権利 … 被相続人が自分以外の人を被保険者として生命保険を契約して、保険料を支払っていた場合に引き継ぐ権利
- 定期金に関する権利 … 定期金給付契約に基づいて被相続人が掛け金を負担し、被相続人以外が契約者であるもの
- 遺言により受けた経済的利益 … 遺言による信託で委託者以外の人が信託の利益を受けたり、遺言によって著しく低い価額で財産の譲渡を受けたり、或いは借金を免除してもらったような場合には、その経済的利益の相当額を遺贈により取得したものとみなされる
生前贈与を受けた財産も次のいずれかに該当する場合は、相続税の課税対象になります。
- 相続時精算課税による贈与財産
- 相続開始前3年以内の相続人又は受遺者に対する贈与財産
令和6年以降に贈与される財産については、相続税の対象になる期間が順次延長され、最終的には相続開始前7年以内に行われた贈与が相続税の対象になります。
2.は、相続税逃れを避ける為に設けられた制度です。
通常の贈与には1人当たり年間110万円の非課税枠がありますが、死期が迫ってから非課税枠内で贈与を行なっても、その贈与は相続財産に含まれるのです。
但し、贈与を受けた人が、相続人でも受遺者でもない孫などの場合には、このルールは適用されないので、贈与の時期を気にせず、節税対策として生前贈与を活用できます。
相続税の非課税財産
金銭的な価値があっても、相続税が掛からない財産もあります。
例えば、墓地や仏壇などの祭祀財産、公益事業に使われる財産などが挙げられます。
また、みなし相続財産のうち、相続人が受け取る死亡保険金や退職保険金は、全額が課税対象となるわけではなく、一定額(500万円×法定相続人の数)は非課税となります。
このことを利用して、相続税の掛からない財産を準備すれば、相続税対策となります。
例えば、現金を残した場合は、相続税の対象となりますが、そのお金でお墓を買っておけば、相続税の対象にはなりません。非課税の財産となるものは、早いうちから準備した方が得になるわけです。
- 相続税の掛からない財産 -
- 皇室経済法の規定により皇嗣が受けたもの
- 墓所・霊廟・祭具など、日用礼拝の用に供するもの
- 宗教・慈善・学術等、公益事業者が取得した公益事業財産
- 心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権
- 生命保険金などで、相続人一人につき500万円までの分
- 死亡退職金などで、相続人一人につき500万円までの分
- 国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付したもの
- 特定の公益信託の信託財産とする為に支出したもの
- 相続税の申告期限前に災害により被害の遭った相続財産
相続財産の評価方法
相続財産が相続税の対象になるかどうか…。
これは、その相続財産がどれくらいの価値を持っているかによって決まります。
問題となるのは、この「価値」の基準です。
相続財産が現金ならば、その金額で相続税の対象になるかどうかが分かります。
しかし、土地や建物など、単純に金額に換算しにくい財産については、相続税用の基準によって換算し、その上で相続税の対象になるかどうかを調べることになります。
相続税用の基準は、法律では「時価」と定められています。
ただ、時価と言っても、実際には適正な時価がいくらであるかはなかなか判断できません。
そこで、様々な種類の財産について、具体的な時価の計算方法を示したのが「財産評価基本通達」です。
通常の実務上は、この通達に示された計算方法で財産を評価することになります。贈与の場合も同様です。
通達に基づいた方法を用いれば、基本的に素人でも評価額を計算することができます。
但し、広大な土地や、上場されていない株式の評価などについては、計測や計算上複雑な部分が多いのも確か。
このような財産については、税理士や土地家屋調査士といった専門家に評価を依頼するのが間違いありません。
預貯金・貸付信託・公社債
預貯金
普通預金など、利息が殆ど付かないものは、相続日の残高がそのまま相続税評価額となります。
定期預金などについては、相続日の時点で解約した場合の利息(既経過利息)から、その利益に対する源泉徴収分(20%)を差し引いた金額を預金残高に加えて評価します。
既経過利息とは、その時点で解約した場合に支払われる利息のことです。
この場合の利率は、満期時の約定利率ではなく、解約利率を用います。
- 普通預金等 … 相続開始日の預入高
- 定期預金等 … 相続開始日の預入高+(既経過利息-源泉所得税額)
貸付信託
貸付信託などの受益証券は、元本の額と相続日までの既経過収益から、その収益に掛かる源泉徴収分を差し引きます。
更に相続日に売却したと仮定して、その場合の売却手数料も控除して評価します。
既経過収益は相続日までの期間の予想配当率が基準です。
これは信託銀行などに問い合わせて下さい。
証券会社が発行している証券投資信託の受益証券は、相続日の基準価額によって評価します。
- 貸付信託の受益証券 … 元本の額+(既経過収益の額-源泉所得税の額)-売却手数料
- 証券投資信託の受益証券 … 基準価格-解約請求した場合の源泉所得税の額-信託財産留保額・解約手数料
公社債
公社債とは、国や地方公共団体、事業会社が一般投資家から資金を調達する為に発行する債券のことです。
公社債は、利付公社債・割引公社債・転換社債の別に、それぞれ下記のように評価します。
上場されている公社債や基準気配が公表されている公社債については、相続日における市場価格(最終価格又は基準気配)を基に評価されます。
市場価格のない公社債については、発行価額がベースとなります。
- 利付公社債
利付公社債は、券面にクーポンが付いていて、通常年2回の利払いがあります。
但し、登録債という券面のないものもあります。
相続財産として評価する場合には、前回の利払い日から相続日までの未収利息(既経過利息)を発行価額、又は市場価額(どちらか低い金額)に加えて評価します。
その際に、既経過利息の源泉徴収分(20%)は控除されることになっています。
- 上場銘柄 … 最終価格+(既経過利息の額-源泉所得税額)
- 基準気配銘柄 … 基準気配+(既経過利息の額-源泉所得税額)
- 上記以外 … 発行価額+(既経過利息の額-源泉所得税額)
- 割引公社債
割引公社債とは、券面の額より低い価額で発行される債券です。
償還の際に受け取れる券面額より割り引いた価額で発行するため、その差額(償還差益)が利息分となります。
定期的な利息が付かない割引公社債では、償還差益によって実質的な既経過利息分を割り出します。
これを「既経過償還差益」と呼んでいます。
発行価額にこの既経過償還差益を足したものが評価の基準となります。
但し、償還差益は利息とみなされないため、源泉徴収はなく、従って控除もありません。
- 上場銘柄 … 最終価格
- 基準気配銘柄 … 基準気配
- 上記以外 … 発行価額+既経過償還差益の額※
- ※ … (券面額-発行価額)×発行日から課税時期までの日数/発行日から償還日までの日数
- 転換社債
転換社債は、一定期間が過ぎると条件付きでその会社の株式に転換できる社債です。
評価方法は、原則的に利付公社債と同じ。
但し、その会社の株価が転換価額を超えている場合には、株式の市場価額によって算出することになっています。
- 上場銘柄・店頭登録銘柄 … 最終価格+(既経過利息の額-源泉所得税の額)
- 発行会社の株価が転換価格を超える場合 … 発行会社の株価×100円/その転換社債の転換価格※
- ※以外 … 発行価額+(既経過利息の額-源泉所得税の額)
土地
相続財産というと、真っ先に出てくるのが「土地」です。
しかし、土地には次の4つの評価額があります。
①実勢価格(売買時価)
②地価公示価格(標準価格)
③相続税評価額(路線価)
④固定資産税評価額
相続財産の評価は「時価」で行われるのが基本なので、本来は①が利用されるべきなのですが、実際の計算では③が使われます。
この③は②の地価公示価格の「8割評価」が目処とされています。
宅地(自用地)
宅地の評価方法には、土地の所在する地域によって、「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。
路線価方式とは、市街地にある宅地の評価に用いる方法です。
その宅地が面している道路に付けられた価額(路線価)をベースにして評価額を計算します。
路線価が定められていない地域については、倍率方式で評価することになります。
評価しようとする宅地がどちらの方式によるのかは、所轄の税務署にある「財産評価基準書」で確認できます。
- 路線価方式
路線価方式による評価では、路線価図を使います。
路線価図は毎年改訂されていて、税務署に行けば誰でも閲覧することができます。
また、国税庁のホームページにも掲載されています。
路線価とは、道路に付けられた値段のことで、その道路に接する不動産の評価額の基準になっているのです。
道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価格をいい、相続税・贈与税の算定基準となります。
基本的には、この路線価に地積(土地の面積)を掛ければ評価額が算出されます。
- 路線価×地積=評価額
路線価は、その道路に一方のみを接する標準的な形状の宅地について設定されています。
しかし、現実の宅地は必ずしも標準的なものばかりではありません。
側方にも道路があったり、間口が狭かったりと様々です。
そこで、このような宅地の立地や形状に応じた補正を加えて、実際の価値により近い評価額を割り出すことになります。
これを「画地調整」と言います。
これは同じ面積の土地でも形によって、利用価値に差が出てくるからです。
画地調整の主な項目は次の通りです。
- 奥行価格補正 … 奥行が長い、又は短い宅地
- 側方路線影響加算 … 角地にある宅地
- 二方路線影響加算 … 正面と裏面に道路がある宅地
- 間口狭小補正 … 間口が狭い宅地
- 奥行長大補正 … 奥行が極端に長い宅地
- がけ地補正 … がけ地にある宅地
- 不整形地補正 … 形が歪な宅地や三角地
このうち、側方路線影響加算と二方路線影響加算は複数の道路に接している宅地について価額を増加させる調整項目です。
それ以外は、利用価値の減少分を見込んだ減算項目となっています。
これらの調整は、路線価に一定の補正率又は加算率を乗じて行います。
- 倍率方式
倍率方式による宅地は、その宅地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価額を算出します。
こちらは複雑な計算や土地の形状による補正はなく、固定資産税評価額に倍率を掛けるだけです。固定資産税評価額は市区町村役場の固定資産台帳で調べられます。
- 固定資産税評価額×倍率=評価額
倍率は国税局が毎年見直しをしており、倍率表により公開されます。
倍率表は税務署で閲覧できる他、国税庁のホームページでも公表されています。
尚、固定資産税評価額とは市区町村の固定資産台帳に登録された価格を言い、固定資産税の計算の基礎となる課税標準額ではありません。
各自治体が発行する「評価証明書」で確認して下さい。
農地・山林・別荘地など
- 農地
相続税の財産評価では、農地を次の4種類に区分します。
- 純農地 … 農用地区域にある農地で、農業政策上の規制が厳しい農地(①)
- 中間農地 … 都市近郊にある農地で、純農地よりは規制が少ない地域(②)
- 市街地周辺農地 … 市街地周辺にある農地(③)
- 市街地農地 … 市街化区域内にある農地(④)
①と②は倍率方式、④は宅地比準方式又は倍率方式で評価します。
③は、④の市街地農地としての評価額の80%で評価します。
倍率方式の仕組みは宅地の場合と同じです。
その農地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて評価額を算出します。
倍率は、倍率表に農地区分と共に表示されています。
宅地比準方式の評価額は、その土地を宅地とみなした場合の評価額から、宅地に造成する場合の費用を差し引いた額です。
農地を相続した場合、そのままの評価で相続税を課されると、納税の為に農地を売らねばならない、という事態が起きかねません。
そのため、相続人が農業を継続する場合には「農地の相続税評価額のうち、農業投資価格を超える部分に掛かる相続税について納税を猶予する」という特例が設けられています。
- 倍率方式 … 固定資産税評価額×倍率
- 宅地比準方式 … (宅地とみなした場合の価額-宅地造成費)×地積
- 山林
山林についても、基本的に農地と同様に評価します。
①純山林、②中間山林、③市街地山林に区分され、①と②は倍率方式、③は宅地比準方式又は倍率方式となります。
但し、山林の場合は縄伸び(登記簿上と実際の地積が異なること)があるので、そのような場合は実際の地積によって評価します。
- 縄伸び地 … 固定資産税評価額×実際の地積/登記簿上の地積×倍率
- 別荘地
別荘地は山間や海岸など自然の土地をそのまま生かした地形が多いため、宅地とみなされないことになっています。
そのため、評価方法は「その土地の所在地の地目」によって算出します。
別荘地の該当する地目には、上記の山林などの他に、原野などもあります。
原野は、①純原野、②中間原野、③市街地原野に分類され、それぞれ①・②は倍率方式、③は宅地比準方式又は倍率方式で評価されます。
貸宅地・貸家建付地・借地権
- 貸宅地
他人に貸している土地には、その土地に「借地権」という権利が発生しています。
これは土地の所有者が一方的に立ち退きを要求できないよう、借地人の立場を保護する意味で作られた権利です。
つまり土地の所有者は、たとえ自分の土地であったとしても、借地権がある土地を自由に利用することはできません。
そのため、貸宅地(底地)は評価が軽減されることになっています。
具体的には、通常の評価額から借地人の持っている借地権価額相当分を差し引いて計算します。
- 貸宅地 … その宅地の通常価額-(その宅地の通常価額×借地権割合)
計算式中の「借地権割合」は、地域ごとに決まっていて、路線価図で調べられます。
例えば、相続税評価額が1億円、借地権割合が60%の貸宅地の場合、「1億円-(1億円×60%)=4,000万円」がその土地の評価額です。
親が所有する土地に子供が家を建てて住む場合、親子間で適正な「地代の支払いがあれば貸宅地」に該当します。
無料で使っている場合は、使用貸借と言って税務上は借地権がないものとして扱われ、親の土地は自用地として評価されます。
- 貸家建付地
自分の土地に自分で建物を建て、その建物に借家人が居る土地を「貸家建付地」と言います。
これは、一戸建ての家屋を賃貸している場合はもちろん、賃貸アパートやマンションとして、他人に部屋を貸している場合も含まれます。
貸家建付地の土地や建物自体は、もちろん持ち主の財産です。
しかし、相続が発生したからといって、既に住んでいる人に、すぐに立ち退いてもらうことは困難です。
そのため、このような土地についても、通常の評価額より低い価額で評価することになります。
具体的に数式で示すと次のようになります。
- 貸家建付地 … その宅地の通常価額-(その宅地の通常価額×借地権割合×借家権割合)
借家権割合とは、借家人が持つ権利のことで、全国一律30%になっています。
- 借地権
土地を借りる権利のことを「借地権」と言います。
借地権は、その土地を借りている人を保護するものです。
具体的に言うと、借地権というのは、たとえ土地の所有者でも、その土地に関しては自由にいじらせないという強い権利です。
だから借地権を持つ人にとっては、この権利も大きな財産。相続に際しては、当然財産扱いされます。
つまり、土地を持っていなくても、その土地を借りていることが一つの財産となるのです。
借地権の評価額は、その土地の評価額に借地権割合を掛けたものとなります。
- 借地権 … その宅地の通常価額×借地権割合
土地の評価額は、通常の方法(路線価・倍率方式)によって計算します。
借地権割合は地域ごとに決められていて、一般的に土地の評価額が高くなるほど借地権割合も高くなります。
借地権割合は路線価図や倍率表で確認できます。
建物
家屋(事業用・居住用)
家屋の評価額は、固定資産税評価額に一定の倍率を掛ける倍率方式で計算します。
とは言え、家屋の倍率は全地域「1倍」なので、固定資産税評価額がそのまま家屋の評価額となります。
- 家屋 … 固定資産税評価×1.0倍
固定資産税評価額は、市区町村役場又は都税事務所などで確認できます。
家屋の評価額は一度調べれば、先ず変化しません。
家屋は年数が経つに連れて老朽化し、価値は下がりますが、その一方で建築費が上昇するからです。
この2つのバランスを考慮した上で、プラスマイナスゼロと判断されるわけです。
付属設備
家屋には建物の他に色々な付属設備があります。
例えば、電気設備やガス設備、給排水設備や避雷針、そしてエレベーターなどが備わっている場合もあります。
このような設備も相続の際に財産とみなされます。
しかし、これらは家屋の一部として、固定資産税評価額に含まれているので、改めて評価する必要はありません。
独立設備
家屋から独立した門や、塀、庭石、庭木、池などの庭園設備、煙突、プールなどのことを「構築物」と言います。
これらは、家屋の評価とは別に計算されます。
評価する際には、それぞれの物について、原則的に一個ずつ評価することになっています。
しかし、バラバラにすると利用価値が著しく低下するようなものについては、一括して評価します。
構築物の価額は、「相続開始時点で、その構築物を再建築する場合の価額」から「減価」を除いた額の70%です。
減価とは、取得時期から相続開始までの償却費用のことです。
建築中の家屋
新しい家屋を建設中に、相続が起こってしまうケースも少なからずあります。
相続が開始した時に家屋を建築中だった場合には、その家屋も相続財産に含まれます。
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額が基準ですが、建物の固定資産税評価額はその建物が完成した時点で決定されます。
そのため、この場合の相続税評価額は、固定資産税評価額を基準にすることができません。
このような場合には、「費用現価」が基準となります。
費用現価とは、相続が開始された日までに掛かった建築材料費や施工費などをその時点の価額に引き直した額です。
この費用現価の70%が建築中の家屋の相続税評価額です。
- 建築中の家屋 … 費用現価×70%
実際に費用現価を算出する場合には、建設会社に費用明細を算定してもらいます。
貸家
賃貸マンションやアパート、又は賃貸している一戸建てといった建物の評価額は、居住用とは異なります。
これらの土地が貸家建付地ということで評価減の対象になりますが、建物についても同様に評価が下がります。
土地については、、借地権割合を差し引くことになっています。
建物の場合にも同じように、通常の評価額から借家権割合を引いて評価額を算出します。
借地人や借家人には、そこに住み続ける権利があるため、相続が開始されたからと言ってその家を出て行ってもらうわけにはいきません。そこで、このような割引があるのです。
具体的な計算方法は次のようになります。
- 貸家 … 通常の評価額×(1-借家権割合)
借家権割合は現在30%ですから、貸家の評価は70%となります。
住居を兼ねる貸家
マンションなどを建て、賃貸すると同時にその一室に自分たちが住んでいる場合は、単なる貸家とは評価方法が異なってきます。
家屋の固定資産税評価額は、用途などは全く考慮されず、1棟ごとに定められていますが、相続税評価ではそれぞれの用途により、区分して評価額を算出します。
例えば、5階建てのマンションを建築し、1階を自分の居住用とし、2階から5階までを賃貸していたとします。
このような場合、1階を居住用として評価し、2階から5階までを貸家として評価しなければなりません。
仮にそれぞれの階の床面積が同じとすれば、居住用部分が5分の1、貸家部分が5分の4として計算します(床面積で配分)。
つまり、固定資産税評価額の5分の1が居住用部分の評価額、残り5分の4のうち、借家権割合を除いた価額が貸家部分の評価額になるわけです。これらを合計した額が、この建物の評価額になります。
建物が居住用、賃貸用と区別して計算されるわけですから、土地についても同じ方法が用いられます。
先ほどの例でいくと、建物が建っている土地のうち、全体の5分の1までが居住用の土地、残り5分の4が貸家建付地としての評価になるわけです。
つまり、5分の1は通常の方法(路線価・倍率方式)で評価され、5分の4は貸家建付地として、通常の評価額から借地権割合、借家権割合を掛けた分だけ除いた額で評価します。
従って、この土地の評価額はそれらを合算した額になります。
借家権
戸建てやマンションなどを借りている人(借家人)には、借家権という権利があります。
しかし、借家人の持っている借家権は、相続財産としては評価されません。
居住用の家屋であっても、自分の所有していない家屋は、相続財産にならないわけです。
逆に、家屋を他人に貸している人(貸家を所有している人)は、借家権割合30%を、所有家屋の評価額から差し引くことができます。
株式
株式は、「上場株式」「気配相場等のある株式」「取引相場のない株式」の3種類に分けて、それぞれに評価することになっています。
上場株式
上場株式とは、証券取引所に上場されている株式をいいます。
相続税の財産評価は、時価で行うことが原則です。
原則通りに上場株式を評価すると、相続開始日の「終値(最終価格)」が評価額となります。
しかし、株価は毎日変動する上に世界情勢や経済状況で急騰・急落することもあるため、課税の安定性という観点から、「相続の開始日を含めた3か月間の株価」を参考にします。
具体的には、相続開始日の終値と、相続開始日に属する月、その前月、その前々月の毎日の終値の平均をそれぞれ求め、これら4つの価額のうち、最も低い価額を評価額とします。
- 相続開始日の終値(最終価格)
- 相続開始日の月の毎日の終値の平均額
- 相続開始日の前月の毎日の終値の平均額
- 相続開始日の前々月の毎日の終値の平均額
1~4のうち、最も低い価額が評価額となります。
気配相場等のある株式
気配相場等のある株式には次のものがあり、それぞれに評価方法が決められています。
- 登録銘柄・店頭管理銘柄
日本証券業協会により「登録銘柄」として登録されている株式と、「店頭管理銘柄」として指定されている株式です。
これら店頭気配のある株式は、「相続開始日の取引価格」、又は「相続開始月を含めた過去3か月の取引価格の月平均」のうち、最も低い価格で評価します。
- 公開途上にある株式
上場又は登録に際して公開途上にある株式は、その株式の「公開価格」によって評価します。
取引相場のない株式
取引相場のない株式とは、上場株式又は気配相場等のある株式のいずれにも当たらない、いわゆる「非上場株式」をいいます。
取引相場のない株式の評価方法は、株式を取得する人が、株式の発行会社に対して「経営支配力」がある株主か否かで異なります。
経営支配力がある株主とは、オーナー一族のように「議決権」を一定割合以上持ち、会社に対して「大きな影響力」のある株主のことです。
この立場の人が取得した株式は、会社の業績や資産額に基づいて評価する「原則的評価方式」で評価します。
原則的評価方式には、「類似業種比準方式」「純資産価額方式」「併用方式」の3つがあり、基本的には会社の規模によって次のように評価方式が決まります。
- 類似業種比準方式 … 評価会社の業種に類似した上場会社の株価を基に評価する(大会社)
- 併用方式 … 1と3を併用する(中会社)
- 純資産価額方式 … 評価会社の資産や負債を相続税評価額で引き直して評価する(小会社)
一方、経営支配力を持たない株主(議決権割合が低く経営にも関与していない株主)が取得した場合は、特例的な評価方式である「配当還元方式」で評価します。
- 配当還元方式 … 株式から得られる年配当金額を基にして評価する
一般に配当還元方式の方が評価額は低くなりますが、原則的評価方式による方が低くなる場合は、原則的評価方式により評価します。
取引相場のない株式の評価はとても複雑です。上場株や店頭株のように株式を公開していないため、取引の「時価」が存在していないからです。事業承継にも関わりますので、詳しくは税理士に相談しましょう。
生命保険金・死亡退職金
被保険者の死亡によって受け取れる死亡保険金や死亡退職金も相続財産とみなされます。
但し、死亡保険金や死亡退職金は、被相続人が自分の死に備えて、積み立ててきた財産とも言えます。
そこで、被相続人の死亡により、法定相続人が保険金や退職金を取得した場合に限り、一定金額を非課税としています。
非課税金額の限度額は、「500万円×法定相続人数」です。
例えば、法定相続人が妻と子2人の合計3人の場合には、誰が受け取っても非課税限度額は1,500万円となるわけです。
死亡保険金(又は死亡退職金)の総額が非課税限度額を超えた場合には、その人が取得した金額から「500万円×法定相続人数×その人が取得した金額÷保険金(退職金)総額」をマイナスした額となります。
尚、非課税の適用があるのは「相続人だけ」です。内縁の妻や夫、代襲相続人ではない孫、相続放棄した人などが受け取った死亡保険金は全額課税の対象となります。
死亡退職金の他に、会社から功労金などを受け取ることもありますが、それらの金額も死亡退職金の中に含めて計算します。
弔慰金や花輪代、香典等として、会社から受け取ったものについては、社会通念の額を超えていない程度までは、非課税扱いとなります。
社会通念の目安としては、弔慰金については、業務上の死亡である場合は賞与以外の普通給与の3年分、業務上以外の死亡である場合は半年分、といった額になります。
弔慰金などがこの金額を超えた場合には、超えた金額が死亡退職金に該当するものとみなされ、課税の対象となります。
その他の財産
一般動産
家具や電化製品、自動車なども相続財産となりますので、適切な価格で評価します。
これらの一般動産は、「調達価額」で評価するのが原則です。
調達価額とは、評価する時点で同じ程度のものを買う場合の価格のこと。例えば、自動車なら新車ではなく、同じ車種・年式の中古車の価格となります。
調達価額がない、よく分からないというものについては、新品の小売価格から経過年数に応じた償却費を差し引いて評価することになります。
- 調達価額が分かるもの … 調達価額
- 調達価額が不明のもの … 新品小売価格-償却費相当額
動産は一つひとつ評価するのが原則ですが、少額のものをそれぞれ評価するのは大変です。
そこで、1個又は1組の価額が5万円以下のものについては、「家財道具一式〇〇万円」というように一括できることになっています。
書画・骨董品・貴金属
書画や骨董品の値段はあってないようなものですが、財産評価基本通達では「売買実例価格・精通者意見価格などを参酌して」としています。
精通者意見価格とは、プロの鑑定士による評価額をいいます。つまり、これまでの売買例や鑑定士などの専門家の評価額を考え合わせて価額を割り出すことになります。
- 書画・骨董品 … 売買実例価格・精通者意見価格
宝石や貴金属は基本的に一般動産と同様に評価しますが、特に高価なものは鑑定が必要になる場合もあります。
尚、金やプラチナなどの地金は取引相場がありますので、課税時期の取引価格で評価します。
ゴルフ会員権・リゾート会員権
ゴルフ会員権、リゾート会員権などで取引相場がある場合は、相続開始日の取引価格の70%で評価します。
取引相場のないゴルフ会員権は、次のいずれかで評価します。
- 株式としての評価額
- 株式としての評価額と預託金としての評価額の合算
- 預託金の金額
- ゴルフ会員権 … 取引価格×70%(取引相場のあるもの)
生命保険契約に関する権利
被相続人が他者を被保険者とする生命保険を契約して保険料を支払っていた場合、被相続人が死亡しても保険金は支払われませんが、保険契約の権利(解約返戻金請求権)が相続人などに承継されることになります。
これは「本来の相続財産」として課税されます。
他方、前述のケースで保険料を支払っていたのは被相続人だが、契約者の名義が被相続人以外の人である場合、相続税法では「被相続人が死亡した時点で契約者が保険契約の権利を相続又は遺贈により取得したもの」とみなし、相続税を課税することにしています。
相続財産又はみなし相続財産として課税される「生命保険契約に関する権利」は、相続日に解約した場合の「解約返戻金の額」を評価額とします。
- 生命保険契約に関する権利 … 解約返戻金の額
定期金に関する権利
定期金とは年金のように定期的に支給されるものをいいますが、この定期金給付契約も生命保険契約に関する権利と同様に扱われます。
すなわち、まだ給付事由が発生していない定期金給付契約で、被相続人が掛金や保険料を負担し、他者が契約者となっている場合、契約者は「相続や遺贈によって定期金給付契約の権利を取得したもの」とみなされます。
被相続人が保証期間の付いた定期金の受給中、保証期間内に死亡すると、残りの期間について遺族に定期金又は一時金が支給されます。
被相続人が保険料を負担していたものである場合、遺族は「相続又は遺贈によってその受給権を取得したもの」とみなされます。
給付事由が発生している年金受給権などは、有期定期金・終身定期金の区分ごとに評価方法が決まっています。
有期定期金とは、確定年金や、保険金・退職金を年金形式で受け取る場合のように「受給期間が決まっているもの」をいいます。
この場合は、残りの給付金の総額に「残存期間に応じた一定割合」を掛けた額を評価額とします。
一方の終身定期金は、終身年金のように「生涯給付される定期金」のことです。
こちらは1年間の受給額に、「受給者の受給開始時の年齢に応じた一定倍率」を掛けます。
- 有期定期金 … 残存期間の受給総額×一定割合
- 終身定期金 … 年間受給額×一定倍率
保証期間付終身年金などを遺族が継続給付する場合の受給権は、有期定期金・終身定期金それぞれの方法で算出した額の「いずれか高い方」を評価額とします。
まとめ
相続税額を計算するには、先ず対象となる財産にどれくらいの価値があるのか、その価額を割り出すことが必要です。
その為には、先ず相続財産が「どのように」「いくらで」評価されるのかを知る必要があります。
現金や預貯金であれば、残高がそのまま評価額になりますが、問題は不動産や株式、骨董品など、価額が変動するものです。
相続税の財産評価は、相続開始時の「時価」で行うのが原則です。
しかし、時価と言っても、そう簡単に分かるものではありません。
何を以て「時価」とするかは色々な考え方がありますし、取引価格のない財産や、美術品のように価格があってないような財産もあります。
また、財産によっては価額に幅があるものもあります。
そこで、相続税の計算上、財産の価額については、相続税法や国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づいて評価することが原則になっています。
- 主な相続財産の評価方法 -
- 市街地の宅地 … 路線価×土地の面積
- 郊外の土地 … 固定資産税評価額×倍率
- 山地・農林 … 固定資産税評価額×倍率など
- 借地権 … 自用地としての評価額×借地権割合
- 貸宅地 … 自用地としての評価額-借地権の価額
- 家屋 … 固定資産税評価額
- 貸家 … 固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
- 上場株式 … 相続開始日の最終価格など
- 取引相場のない株式 … 株主の区分や会社の規模等により異なる
- 預貯金 … 預入高+既経過利息-源泉所得税
- 信託・公社債 … 種類により異なる
- 死亡保険金 … 受取金額-(500万円×法定相続人の数)
- 死亡退職金 … 受取金額-(500万円×法定相続人の数)
- 自家用車 … 売買実例価格(中古市場の相場)
- 骨董品・美術品 … 売買実例価格 / 精通者意見価格
- 家財 … 再調達価格
- ゴルフ会員権 … 取引価格の70%(取引相場がある場合)
財産評価を正しく行うことで、税負担が軽くなるケースがあります。
相続財産の中で最も高い割合を占めるのは不動産です。
正しい評価方法で土地や家屋の相続時の価額を求めれば、評価額が低くなり、結果的に相続税の負担が軽くなることも十分あります。
財産評価を正しく行わなかったばかりに、相続税を払い過ぎているケースも意外に多いのです。
財産によっては複雑な計算や専門知識が必要な場合もありますが、一般的な土地建物や上場株式などであれば、自分で評価額を計算することは可能です。
相続財産の評価は、基本的に相続が発生した時点、つまり「被相続人が死亡した時点での価格」です。
ただ、相続発生から相続税の申告まではたったの10か月しかありません。
申告期限を過ぎてしまうと、各種の特例が適用できなくなったり、延滞税が追加されてしまうことも考えられます。
このような事態を避ける為に、複雑な財産がある場合は、相続前にしっかり調査しておくことがお勧めです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。