なんで遺言が必要なの?
遺言でできることは?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 遺言とは
- 遺言でできること
- 遺言書を作るメリット
- 法的効力を持つ遺言の内容
- 遺言書を作っておきたい人
- 遺言執行者とは
遺言とは
遺言とは、自分が死んだ後に効力が発生する法律的に保障された意思表示のことで、「ゆいごん」又は「いごん」と読みます。
遺言の書かれた書類を「遺言書」と言います。
人は、生まれてから死ぬまではその意思が尊重されますが、死亡すると物言わぬ物体になってしまい、原則として全ての権利を失います。
しかし、法律に基づいた形で生前に遺言書を作成しておくと、死後の後始末や相続、財産の処分などについて、死去した後でも自分の意思を伝えることができるのです。
遺言とは本人の生前の遺志を示したもので、遺言者や相続を受ける人(法定相続人や受遺者など)にとって、極めて重要なものです。
人が死亡すると、全ての財産の所有権や処分権限は「相続人」に移ります。
たとえ100億円の財産が有っても、亡くなった人はその財産を処分できません。
そこで、遺言書によって財産処分や相続の手続きを行うのです。
生前に「妻に不動産を全て相続させる」「長男に預貯金を相続させる」などの遺言書を作成しておくことによって、相続人は遺言書を金融機関や法務局などに持参し、遺言書に基づいた相続手続きをすることができます。
これは「遺言による相続は法定相続に優先する」という大原則があるからです。
遺言の目的
故人が残した財産を「遺産」と言います。
遺産は遺族らが相続をするわけですが、その分割には、
- 話し合いによる分割
- 法定相続による分割
- 遺言による分割
の3つの方法があります。
これら3つの方法の中では「遺言による分割」が優先されます。
では、もし遺言がなければ、相続はどうなるのでしょうか。
法定相続人が話し合って遺産を分割し、それに対して誰も異議を唱えない場合には、その通りに相続することができます。
もし、相続人のうちの誰かが異議を唱え、話し合いによって解決しない場合には、法定相続の仕組みに従うか、調停や審判などに委ねなければなりません。
例えば、相続人が「故人と同居している長男の嫁(長男は既に他界している)」と「故人の兄弟姉妹(故人とは別居)」というケースでは、法定相続では同居している故人の長男の嫁は1円たりとも相続できません。
故人の長男の嫁は法定相続人ではないのです。
もしも故人が、「お嫁さんには世話になったから」という理由などで相続させたい場合には、遺言を行う以外に、遺産相続に故人の遺志を反映させる有効な手段はありません。
また、遺言によって、子供の認知、相続人の廃除など、身分上の手続きもできます。
婚姻関係にない相手との間に生まれた子供を認知しないでおくと、親子関係が認められず、その子に財産を残すことはできません。
いくら口頭で「お前を子供として認め、全財産を渡す」と言っていても、遺言書がなければ1円の財産もあげることはできません。
このように、財産の処分や身分上の手続きも、本人の意思が遺言書という形で明確になっていれば、無用な相続のトラブルを最小限に止めることができるのです。
「自分にはどうせ大した財産はないから」と考えるのではなく、財産が多いか少ないかに関わらず、将来のトラブルを未然に防ぐ為にも、遺言は必要な行為なのです。
遺言書を作るメリット
相続争い(争続)を最小限に止める
相続が争いになる原因に、遺産を分ける際の不公平感があります。
遺言書がなければ、本人がどのように財産を分配しようとしていたのかが分かりません。
その結果、相続人がそれぞれの立場で自分の取り分を主張します。
例えば、「自分は同居して面倒を見たのだから、家を貰うことができる筈だ」とか、「次男は学費を出して貰ったから、遺産の取り分は少なくても良いんじゃないか」などと言う人が出てきたりします。
自分の遺産のせいで、残された子供たちの仲が悪くなったり、断絶したりという事態になることだけは何としても避けたいものです。
貴方が相続人に配慮した遺言書を残していれば、相続争いも起こりにくくなります。
大切な人に財産を残す
遺言書がなければ、遺族は原則として、法律で定められた割合(法定相続分)で遺産を引き継ぐことになります。
しかし、遺産の形は、不動産や預貯金、株式など様々なので、実際には、法定相続分を目安として、相続人全員が協議をしてどのように分割するかを決めることになります(遺産分割協議)。
しかも、相続人全員が合意をすれば、法定相続分通りに分けなくても構わないことになっています。
ですから、分割協議の場では、主張が強い人ほど得をして、遠慮深い、気の弱い人ほど損をするといったことにもなりかねません。
法定相続分通りに相続できる保証はどこにもないのです。
大切な人に自宅やその他の財産を残したいという希望がある時は、やはり、誰に何をあげるかを遺言書できちんと指定しておくことが、何よりも大切なのです。
生前の希望が叶えられる
生前にはできなかった子供の認知や、お世話になった人へのお礼などが、遺言書によって可能になります。
例えば、親身になって介護をしてくれた甥や姪、友人など、相続権のない人にお礼として財産を残したいというような時にも、遺言書で実現できます。
また、葬儀の希望や「私の死後、ペットの世話を頼みたい」などの気に掛かることも、法的効力はありませんが、遺言書で伝えておくことができます。
相続の手続きが簡単になる
遺族は、相続の手続きをする為に被相続人の財産や負債を調べなくてはなりません。
しかし、遺言書があれば大体の見当が付くので、遺族の負担を減らすことができます。
遺言書がなければ、例えば、不動産の所有権移転登記をする場合も、相続人全員の書類が必要になります。
遺言書があれば、指定されている人の書類だけで済みます。
「妻へ」と書いてあれば、原則として妻一人分の書類で相続手続きができるのです。
遺言書を作った方が良い人
- 独身 … 独身で子がなく、親か兄弟姉妹が相続人
- 子がいない … 結婚しているが子がなく、配偶者と親か兄弟姉妹が相続人
- 配偶者が他界 … 配偶者が既に他界し、子が相続人
- 相続人がいない … 独身で子がなく、親も兄弟姉妹もいない
- 再婚・認知 … 先妻/先夫の子、後妻/後夫の子、認知した子がある
- 代襲相続 … 子や兄弟姉妹が先に亡くなり、その子や孫がいる
- 不仲 … 家族間で既に争いを抱えていたり、疎遠、対立している
- 同居 … 相続人が複数同居している
- 介護 … 介護をしている、又は介護を受けている
- 内縁 … 内縁関係の妻・夫がいる
- 使用貸借 … 財産である不動産に住んでいる相続人がいる
- 行方不明 … 相続人に行方不明者がいる
- 海外在住 … 相続人に海外在住者がいる
- 不動産 … 財産の中に不動産がある、財産の多くは不動産である
- 共有名義 … 不動産が分けられない、分けにくい
- 生前贈与 … 生前贈与した財産がある
- 会社経営 … 会社経営をしており、株を所有している
- 分与 … 特定の相続人に多く分けたい、又は分けたくない
- 寄与 … 介護や事業に貢献してくれた相続人に多く分けたい
- 争い回避 … 家族で争わない為に準備しておきたい
- 家業 … 家業を継ぐ者(後継者)に多く分けたい
- 援助 … 援助が必要な相続人(障害者・独身等)に多く分けたい
- 遺贈 … 相続権のない孫や嫁、兄弟姉妹に遺産を分けたい
- 寄付 … 公益団体等に寄付したい
貴方や家族に当てはまる項目がどれか一つでもあれば、身内の感情的な行き違いを争いに発展させない為の配慮が必要です。早めに決断をして遺言書を残した方が良いでしょう。
遺言で叶えられること(遺言事項)
遺言書には何を書いても構いませんが、その全てが法的効力を持つわけではありません。
例えば、「妻の再婚を禁ずる」と遺言しても、それを守る必要はありません。
個人の生き方までは拘束できないのです。
遺言によって指示できる事柄は民法で定められています。
遺言書が法的効力を持つのは、
- 相続に関すること
- 身分に関すること
- 財産処分に関すること
に限られています。
以下が、法的効力を持つ遺言の主な内容です。
しかし、遺言は自分の考えを家族に伝えるメッセージの面もあり、法的効力の伴わない内容であっても、書くのは無駄ということではありません。
その場合、遺言書の最後に「付言事項」として書き加えると良いでしょう。
相続に関すること
- 財産の分割方法
例えば、「土地と家屋は長男に、預貯金は次男に」というように、誰にどの遺産を相続させるのかを指定することができます。
- 相続分の指定
民法では遺産相続の割合が定められていますが、その割合を変更することができます。
例えば、妻と子供1人の場合、法定相続分は2分の1ずつですが、これを妻4分の3、子供4分の1に、と変更することもできます。
但し、相続人には最低限保証された相続分(遺留分)があります。遺留分を侵害した遺言書は、相続発生後に他の相続人から遺留分支払いの請求(遺留分減殺請求)をされる可能性があります。
- 遺産分割の禁止
相続人の間で遺産分割を巡るトラブルが起こりそうな予感がある時には、死後一定期間(最高5年)、遺産分割を禁止すると遺言することができます。
- 相続人の廃除
親に暴力を振るう子供などを相続人から廃除することができます。
遺言書によらず、生前に家庭裁判所に申し立てることもできます。
逆に、生前に廃除していた人を相続人に加えることも遺言できます。
- 遺言執行者の指定
遺言の内容に不満のある相続人が、相続の手続きを妨害することがあります。
それを避ける為に、遺言の内容を実行してくれる遺言執行者を遺言で指定することができます。
- 祭祀主宰者の指定
法律では、お墓や仏壇などを「祭祀財産」と呼び、これを守る人のことを「祭祀主宰者」と言います。
遺言で、祭祀主宰者の指定もできます。
この場合、親族以外の人を指定することもできます。
財産の処分に関すること
- 財産の遺贈
相続権のない人にも、遺産を残せます。
遺贈とは、死後、遺産を贈与することで、一般的に相続人以外の第三者に贈る時に「遺贈」という言葉を使います。
ある条件を付けて財産を遺贈することを「負担付遺贈」と言います。例えば、「財産をあげるのでペットの世話をして欲しい」などと遺言できます。
- 財産の寄付
お世話になった施設などに財産を寄付する、財団法人を設立するなどの寄付行為も遺言できます。
身分に関すること
- 子供の認知
未入籍の相手との間に生まれた子供(非嫡出子)は、父親が認知しない限り財産を相続できません。
生前に認知できなかった場合は、遺言書で認知することができます。
- 後見人・後見監督人の指定
既に配偶者が亡くなり、まだ幼い子供がいる人にとっては、後のことが気掛かりです。
そんな時には、本人に代わって子供の監護や財産管理をしてくれる後見人を指定できます。
まとめ
遺言って何?
自分の財産が死後、誰にどのように配分されるかは「民法の法定相続」によって細かく定義されています。
しかし、この法定相続は、法律によって画一的に定義されているため、各家庭の事情や被相続人の思いなどを適切に反映したものではありません。
遺言はこうした画一的な法定相続を変更するもので、遺言者自身の最終の意思表示であり、最も尊重されるべきものと言えるでしょう。
これによって、各家庭の実情に合った相続財産の分配が行われるようになります。
遺産の分割を巡って家族が争うことを防ぐ為には、遺言書を作成しておくことが大切です。また、財産をどのように分配するか、自分で決めたい場合にも、遺言書を作成しておくことが有効です。
なんで遺言が必要なの?
遺言書がない場合は、法定相続人が協議をして、具体的な遺産分割の方法を決めることになります。
しかし、すんなりまとまるとは限りません。
相続人は被相続人に対して、或いは他の相続人に対して様々な思いを抱いていることが考えられるからです。
例えば、いくら法的に定義されているとはいえ、長年音信不通だった相続人と、亡くなるまで献身的に看病した相続人とが同じ相続分では納得いかないというケースもあるでしょう。
遺産分割に関する協議では、相続人同士が互いの意見を主張し、納得し合うことで、双方の蟠りを解消していきます。
協議がまとまらない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立てることもできますが、骨肉の争いとなることは必至です。
しかし、どの相続人にはどのくらい財産を相続させたいかといった「遺言者の意思」が明確に示されていれば、こうした争いを未然に防止することができます。
特に骨肉の争いを起こさせない為には、遺産分割協議が不要な公正証書遺言が有効でしょう。
遺言でできることは?
遺言書では、法定相続に変更を加えるだけでなく、相続人ではない人に財産を与える「遺贈」を行うことが可能です。
例えば、内縁の夫や妻は法的には相続人にはなれません。
他に法定相続人がいれば、財産はそちらに相続されてしまいます。
また、子の配偶者や親しく世話になった近所の人なども同様です。
しかし、遺言書を作成しておけば、遺贈という形でこうした法定相続人以外の人にも財産を残してあげることができるのです。
どこかに寄付する場合も同様です。
但し、法定相続人には遺留分というものがあり、民法で相続人が最低限確保できる相続の割合が決まっています。いくら遺言で全ての財産を遺贈したくても、相続人の権利である遺留分は除外して考えなくてはなりません。
- 法的効力のある遺言事項 -
- 相続分の指定・指定の委託
- 遺産分割方法の指定・指定の委託
- 遺産分割の一定期間の禁止
- 相続人相互の担保責任の指定
- 特別受益者の持ち戻しの免除
- 遺贈の遺留分減殺方法の指定
- 推定相続人の廃除とその取り消し
- 遺贈
- 寄付行為
- 信託の設定
- 生命保険金受取人の指定
- 子の認知
- 後見人・後見監督人の指定
- 遺言執行者の指定・指定の委託
- 祭祀承継者の指定
遺言は誰が執行してくれるの?
遺産処理に関する遺言の場合、相続人の利害関係が交錯してスムーズに相続が進まないことがあります。
また、遺言内容によっては専門的な知識や経験が必要となるケースもあります。
そうした場合に、遺言内容を第三者の立場から忠実・公平に実行してくれる人が「遺言執行者」です。
遺言執行者には、相続財産の管理・処分を始めとし、遺言の執行に必要な一切の行為を実行する義務と権利があります。
全ての遺言が遺言執行者を必要とするわけではありませんが、「認知」と「推定相続人の廃除・廃除の取り消し」は遺言執行者だけしか行えません。
遺言者は、遺言によって「遺言執行者の指定」又は「遺言執行者を指定することを第三者に委託」することができます。
遺言執行者は破産者などを除き、基本的に誰でもなることができますが、法律や会計の知識が必要とされるので、弁護士などの専門家に依頼することが多いようです。
遺言書の内容を実行する人のことを「遺言執行者」と言います。受諾した遺言執行者が第一に行うべきことは、相続財産の目録を作成し、相続人に交付することです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。