年金制度の仕組みが理解できない…
自分の年金の情報を把握するには?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 年金制度の仕組み
- 年金の情報を把握するには?
- 年金受給の繰り上げと繰り下げ
- 加給年金・振替加算について
- 在職老齢年金について
- 遺族年金・障害年金について
- 国民年金基金について
- 離婚時の年金分割について
- 老齢年金の請求について
公的年金制度
そもそも年金とは、国や保険会社に保険料を預けて運用してもらい、ある特定の年齢になったらお金を受け取る保険です。
年金には二通りの方式があります。
一つは自分が払った保険料に加えて運用益分を年金として受け取る積立方式で、私的年金はこの方式になります。
もう一つは賦課方式で、「その年度における給付金」を「その年度における保険料等の収入」によって賄う方式です。
つまり「現役世代が現在払っている保険料」で「現在年金を受給している引退世代の給付金を賄う」という方式になります。
賦課方式には、保険料を支払う側の人数が減り、受け取る側の人数が多くなると保険料が高くなる、又は受給額が下がってしまうという弱みがあります。
現在の日本の公的年金は賦課方式を基本とした「修正積立方式」です。
この修正積立方式とは「現役世代の保険料を引退世代への給付に回しつつ、余ったお金を将来、少子高齢化が進んだ場合の為に積み立てておく」というものです。
年金制度の仕組み
多くの人にとって、公的年金は老後の主な収入源です。
自分の年金額や、年金の仕組みを知ることは、セカンドライフの生活設計を考える上でも欠かせません。
年金などの社会保険は制度が混在して複雑な上、改正が頻繁に行われているため、理解しづらいものです。先ずは仕組みをおさらいしておきましょう。
年金制度は3階建て
国が運営に関わる公的年金には「国民年金」「厚生年金」の二種類があり、職業や年齢によって加入する制度が異なります。
国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が、加入を義務付けられています。
公的年金の土台となる制度で、「基礎年金」とも呼ばれます。
自営業者や20歳以上の学生、無職の人などは国民年金のみに加入し、「第1号被保険者」と呼ばれます。
自分で保険料を納め、将来は国民年金から基礎年金を受け取ることになります。
民間企業に勤める会社員や公務員などは「第2号被保険者」と呼ばれ、国民年金に上乗せした2階部分に当たる制度に加入しています。
会社員は厚生年金に、公務員や私立学校の教職員は共済年金に加入していましたが、共済年金は2015年10月に厚生年金に統合され、2階部分の年金は厚生年金に一元化されました。
第2号被保険者は、国民年金の基礎年金に加え、厚生年金からも、加入期間や在職中の報酬に比例した年金を受け取ることになります。
勤務先によっては、更に年金が上乗せされる場合があります。
企業が独自に設ける「企業年金」や、共済年金に特有の「退職等年金給付」という上乗せ給付は、年金の3階部分に位置付けられ、これらに加入する人は、老後により多くの年金を受け取ることができます。
一方、国年年金のみに加入する第1号被保険者の人は、第2号被保険者に比べて現役時代に支払う保険料が少なくて済む代わりに、老後に受け取る年金額も少なくなります。
そこで、より手厚い年金を望む人には、「国民年金基金」「個人型確定拠出年金(iDeCo)」「付加年金」といった上乗せ制度が用意されています。
第2号被保険者に扶養されている配偶者で、年収が130万円未満の専業主婦(夫)などは「第3号被保険者」と呼ばれます。
保険料は配偶者が加入する厚生年金全体で負担しているため、本人が保険料を支払う必要はありません。
但し、配偶者が退職して第2号被保険者の資格を失った場合は、第1号被保険者となり、60歳になるまで自分で保険料を納めることになります。
日本の年金制度は、20歳以上の人が加入する国民年金(1階)、会社員・公務員の人が加入する厚生年金保険(2階)、企業や個人が独自に準備する年金(3階)の3階建て構造です。
厚生年金は給料の額と比例
会社員・公務員の場合は、会社勤めをすると自動的に厚生年金に加入することになります。
月々の給料から保険料が引かれ、その分が将来的に受け取る年金に上乗せされます。
また、月々納める保険料は、実際に納めている保険料の半分です。
というのは、残りの半分を会社(公務員の場合は国)が負担(労使折半)することになっているからです。
例えば、給料から引かれる保険料が1万円であれば、会社が1万プラスし、実際には2万円の保険料を納めていることになります。
将来受け取る年金も2万円で計算します。これは会社員の大きなメリットと言えるでしょう。
厚生年金についてもう一つ特徴的なのは、多く給料をもらった人ほど、将来受け取る年金の額も増えるということです。
例えば、勤続年数が長い人ほど納めた年金保険料の総額が増え、その分、受給額も増えます。
また、厚生年金の保険料は、給料とボーナスに18.3%の保険料率を掛けて計算しますので、収入が多い人ほど保険料が高くなります。
納付額と受給額の関係はシンプルで、1階部分は満額の金額が全員共通、2階と3階の部分は多く納めた人ほど多くもらえる仕組みです。
3種類の給付
公的年金からは、3種類の年金が受けられます。
老後に受け取れる「老齢年金」、病気やケガで障害状態になった時に給付される「障害年金」、被保険者が死亡した時に遺族が受け取る「遺族年金」です。
- 老齢年金 … 老齢基礎年金・老齢厚生年金
- 障害年金 … 障害基礎年金・障害厚生年金・障害手当金
- 遺族年金 … 遺族基礎年金・遺族厚生年金・寡婦年金・死亡一時金
老齢年金を受け取るには、原則として公的年金制度に10年以上加入している必要があります。
これを「受給資格期間」といい、2023年10月現在は年金加入期間が10年に満たない場合、年金は1円も受給できないのが原則です。
年金情報の確認方法
自分の年金の納付状況や、将来受け取れる見込み額などは、日本年金機構の「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。
年金は老後の生活設計の根幹であり、いくら受給できるかによって計画が変わりますので、しっかりと内容を確認するようにしましょう。
これらのサービスの内容について分からないことがある場合、専用ダイヤル「0570-058-555」に問い合わせて下さい。
050・070で始まる電話の場合は、「03-6700-1144」になります。
また、ねんきんネットを利用できない場合でも、最寄りの年金事務所や年金相談センターで、見込み額の試算や年金に関する相談に乗ってもらえます。
相談の際、年金手帳や身分証明書などが必要になります。
ねんきん定期便
老後のマネープランを立てるには、公的年金をどのぐらい受給できるかを把握しておく必要があります。
その最も手軽な方法は、毎年誕生月に日本年金機構から郵送される「ねんきん定期便」を確認することです。
50歳未満の人には、これまでの加入実績に応じた見込み額が記載されているのに対し、50歳以上の人に送られるねんきん定期便には、現在の加入の状態や収入額が60歳まで続くと仮定して計算した見込み額が記載されています。
そのため、今後60歳より前に早期退職をしたり、給与の額が減ると支給額は記載額より少なくなり、逆に60歳以降も働き続けたり給与が増えると記載額よりも多く受給できることになります。
この金額が老後の生活設計のベースとなりますので、先ずはどれくらいの金額が受け取れるのか把握することが大事です。
- ねんきん定期便に書いてある内容 -
- これまでの年金加入期間 … 全定期便
- これまでの加入実績に応じた年金額(年額) … 50歳未満の人のハガキ・封書
- 年金見込額 … 50歳以上の人のハガキ・封書
- これまでの年金加入履歴 … 封書
- これまでの厚生年金保険における標準報酬月額などの月別状況 … 封書
- これまでの国民年金保険料の納付状況 … 封書
- 最近の月別状況(直近の納付) … ハガキ・封書
勤め先で「厚生年金基金」に加入している人、過去に加入したことがある人は、基金の代行部分の年金は除いた年金額になっています。
厚生年金基金は国が運営する厚生年金の一部を代行し、基金独自の上乗せ分と一緒に管理・運用しています。
代行部分の厚生年金は基金から支払われます。
そのため、定期便に記載された厚生年金からの年金は、基金の代行部分を除いて計算されているのです。
定期便の見込額には、「加給年金」や「振替加算」も記載されていません。
年金の加入者は、共働き、専業主婦、単身者など様々です。
加給年金は状況に応じて支給されたりされなかったり、一律に説明できるものではないのです。
加給年金などの年金見込額がなくても凡その目安は付きますから、先ずは定期便本体の数字で老後の生活設計を検討した方が良いでしょう。
とても役立つ資料ですが、実際とは少し違う箇所もあることを理解して利用して下さい。
ねんきんネット
パソコンやスマートフォンを使える人は、日本年金機構のホームページにある「ねんきんネット」が便利です。
ねんきんネットは、インターネットで自分の年金情報を見られるサービスです。
全期間の年金加入履歴や最新の年金記録、支給開始年齢や年金見込み額などをいつでもチェックできます。
今後給与の額が変わった場合や、早期退職をした場合、働きながら年金を受給した場合など、様々な条件を設定して受給額の試算もできるので、定年後の生活設計に大いに役立ちます。
年金を早めに受け取る「繰り上げ受給」や、受給時期を遅らせる「繰り下げ受給」をした場合の受給額なども確認できます。
特に厚生年金基金に加入している人は、基金が給付を代行している部分は郵送されるねんきん定期便では反映されないため、見込み額が少なく記載されてしまいます。
しかし、ねんきんネットなら代行部分を含めた正確な受給額を確認できます。
但し、ねんきんネットの受給見込み額では「加給年金」「振替加算」が反映されないため、対象となる人は自分で加算して考える必要があります。
サービスを利用するためには、パソコンやスマートフォンからねんきんネットへの登録が必要です。
ねんきんネットの利用を始めるには、ユーザーIDが必要です。
ねんきん定期便に記載されているアクセスキーとメールアドレス、基礎年金番号を入力し、サイトの指示に従って利用登録をすればユーザーIDが発行され、ねんきんネットの利用をスタートできます。
但し、アクセスキーはねんきん定期便の到着後3か月以内の有効期限が設定されていますので、有効期限が切れている場合などはアクセスキーがない人向けのページで登録しましょう。
ユーザーIDを取得したら、ユーザーIDと登録したパスワードを使ってねんきんネットにログインします。
ログインすると自分の年金に関する情報を確認できます。シミュレーションを行なった結果は保存し、後から見直すことも可能です。
- ねんきんネットで確認できる情報 -
- 自分の年金記録(納付月数など)
- 将来の年金見込み額
- ねんきん定期便(電子版)の内容
- 日本年金機構からの通知書など
年金受給の繰り上げと繰り下げ
年金は、現状の制度だと原則65歳から受け取ることができますが、希望することによって60歳から前倒しで受け取ったり、最大75歳まで受給を後送りにすることができます。
65歳より前に年金をもらい始めることを「繰り上げ受給」、65歳より後にもらい始めることを「繰り下げ受給」と言います。
繰り上げ受給は年金が減額され、繰り下げ受給は年金が増額されるというルールです。
繰り上げ受給
繰り上げは最大で5年間前倒しができ、60歳以降1か月単位で受給開始時期を指定できます。
しかし、本来よりも早くから年金をもらうわけですから、全額を受け取ることはできません。
1か月繰り上げるごとに0.4%ずつ減額されます。
60歳から年金を受け取る場合、減額率は24%(0.4%×60か月)。
一度繰り上げると途中で変更はできず、減額された年金を生涯受け取ることになります。
そのため、早く年金がもらいたい場合には便利で、繰り上げた分だけ先に多く年金をもらえますが、長生きするほど家計リスクは高まります。
年金の減額に加えて、繰り上げには以下のような注意点があります。
- 繰り上げ受給は国民年金・厚生年金同時に行う
- 国民年金の任意加入・追納ができない
- 障害基礎年金・寡婦年金は原則として受けられない
繰り下げ受給
本来は65歳から受け取れる年金を1年以上1か月単位で遅らせることで、後から受け取る年金額を繰り下げ1か月当たり0.7%増額することができます。
最大10年間繰り下げて75歳から受給すれば、84%も増額された年金を受け取ることができます。
資産運用でもリスクなしでここまで増やせる方法は先ずないので、当面は貯蓄で凌げるという人にとっては非常に有利な制度と言えます。
しかし、繰り下げについても以下の注意点があります。
- 税金・社会保険料が増える
- 加給年金や振替加算は繰り下げができない上、繰り下げ待機中はいずれも支給されない
- 繰り下げ待機中に遺族年金などの権利が発生した場合、その月に繰り下げ請求するか、遡って65歳から受給かを選択
損得は本人の寿命次第
繰り上げや繰り下げをした場合、通常通り65歳から受給する場合とどちらが得かは、本人が何歳まで生きるかによります。
自分の寿命が何歳までか分かりませんので、一概にとちらが良いかは言えません。
ただ、超高齢化社会の長生きリスクを考えると、繰り下げによる増額は大きなメリットと言えるでしょう。
一度繰り上げや繰り下げの請求をすると後で取り消しはできず、支給率も生涯変わりません。
ねんきんネットや年金事務所で試算もできるので、それぞれのメリットとデメリットをよく理解した上で、慎重に判断しましょう。
加給年金・振替加算
公的年金は個人単位で加入しますが、厚生年金には給与でいう「扶養手当」や「家族手当」に当たる世帯単位の給付もあります。
ちなみに、ねんきん定期便やねんきんネットの受給見込み額には扶養家族の情報が反映されないため、加給年金と振替加算は含まれません。
該当する場合は自分で受給見込み額にプラスして考えましょう。
加給年金
加給年金とは、厚生年金に20年以上加入した人で、65歳未満の扶養する配偶者がいる場合に、その配偶者が65歳になるまで、老齢厚生年金に加算して支給される額。
一般的には、夫が20年以上会社勤めをしていて、妻が年下の場合に、夫の年金に加算され、扶養する子供(18歳に到達する年度末まで)がいれば、子の人数に応じた加算もあります。
加給年金の金額は決まっており、配偶者加給年金額と特別加算額を合わせて397,500円です。(加入者本人の生年月日が昭和18年4月2日以降の場合)
更に18歳到達年度末日までの子供、又は20歳未満で1級・2級障害の子供がいる場合は、228,700円(第1子・第2子の場合)、76,200円(第3子以降)が加算されます。
加給年金額を受給するには、いくつか要件があります。
先ず、
- 本人が厚生年金に20年以上加入していること
- 配偶者(妻)が年下で65歳未満であること
- 妻の年収が850万円未満であること
などが条件になります。
要件の一つに「配偶者(妻)が年下」とあるように、夫婦の年齢差によって受給期間の長さが左右されます。
日本の家庭では、妻が夫より2~3歳下という世帯が一般的。
仮に夫が65歳になった時点で妻が62歳なら、妻が65歳になって老齢基礎年金額を受け取るようになるまでの3年間は加給年金額を受給できます。
妻が年上の場合は、残念ながら加給年金額の対象外です。
また、妻が厚生年金に原則20年以上加入している場合は、妻自身も十分な老齢年金を受け取ることができるため、扶養手当は必要なしと考えられ、こちらも対象外となります。
とは言え、加給年金は額が大きいので、夫の退職時点で厚生年金の加入期間が20年に僅かに届かないような場合、継続雇用や再就職で加入期間を延ばし、加給年金の受給要件を満たせば、受給額を大きく増やせる可能性があります。
一方、妻が夫の加給年金を得る為に、自身の厚生年金の加入期間を20年未満に止めて会社を離職することは、慎重に判断すべきです。
加給年金は、年額約40万円で妻が65歳になるまでの「有期年金」だからです。
振替加算
妻が65歳になると、妻自身の老齢基礎年金の支給が始まるため、夫に支給されていた加給年金は打ち切られます。
しかし、代わりに妻側の年金に振替加算という加算金の支給が始まります。
仮に夫が死亡しても、65歳以降に離婚した場合でも、受給し続けられます。
振替加算の額は妻の生年月日によって定められていますが、加給年金に比べると少額で、若い世代ほど少なくなります。(1966年4月2日以降=支給なし)
尚、妻が年上の場合、加給年金は出ませんが、振替加算は受けられます。
夫が65歳になった時点から、妻の老齢基礎年金に振替加算が付きます。
この場合、振替加算の受給手続きを行う必要があります。
在職老齢年金
老後の家計を安定させる為にも、定年後も何らかの形で、できるだけ長く働き続けたいと考える人は多いでしょう。
定年後の働き方を大別すると、次の二つの形が考えられます。
- 自営業やフリーランス、短時間勤務のパート・アルバイトとして働く (厚生年金に加入しない働き方をする)
- 再雇用を受けたり再就職したりして、会社員として常勤で働く (厚生年金に加入して働く)
1の場合は収入に関係なく、年金を全額受け取れますが、2の場合は注意が必要です。
厚生年金を受給できる年齢に達した後も会社に常勤で勤め続けていると、給与等に応じて年金が減額されることがあるのです。
在職老齢年金という制度です。
65歳以上の場合、毎月の給与に過去1年間のボーナスの12分の1を加えた額(総報酬月額相当額)に、ひと月当たりの年金を合計した月収が48万円以下であれば、年金は全額支給されます。
これが48万円を超えると、超えた額の半額が年金から減額されることになります。
支給停止額の計算方法は以下の通りです。
- 「年金の月額+賃金」が48万円以下の場合 / 支給停止額=0円
- 「年金の月額+賃金」が48万円を超える場合 / 支給停止額=(年金の月額+賃金-48万円)÷2
イメージしやすいように具体例を挙げてみましょう。
年金の月額が20万円で、ボーナスを含む賃金が36万円だとします。
この場合、双方の合計は56万円になるので、48万円を超えており、支給停止の対象になります。
支給停止を受ける額の計算方法は、以下の通りです。
- (20万円+35万円-48万円)÷2=4万円
この4万円は月々の在職老齢年金から減額される金額です。
つまり、実際に支給される年金は毎月16万円(20万円-4万円)ということです。
年金の基本月額にも依りますが、賃金だけで48万円を大幅に超える場合は、年金が全額支給停止されることもあり得ます。
例えば、年金の月額が10万円でボーナスを含む賃金が58万円のケースです。
この場合、以下の通り計算します。
- (10万円+58万円-48万円)÷2=10万円
このケースだと、年金の月額(10万円)と支給停止の金額(10万円)が同じなので、年金が全くもらえないことが分かります。
尚、この影響を受けるのは厚生年金だけであり、国民年金(老齢基礎年金)について減額されることはありません。
会社員として働くと、70歳までは厚生年金の被保険者として、保険料の支払いが続きます。
年金の減額に加え、厚生年金への加入を続けるので、現役時代と同様に保険料が給与から天引きされ、手取り額が減ります。
厚生年金に加入しながら働くのはデメリットばかりのように思えますが、そうではありません。
在職中に納めた厚生年金の保険料と加入月数分が退職後の年金にプラスされて、将来の年金受給額が増えます。
配偶者が60歳未満の被扶養者であれば、第3号被保険者となり、60歳になるまで国民年金の保険料を個別に納める必要はありません。
その上、厚生年金から脱退すると自費で健康保険に加入しなければいけませんが、厚生年金に加入していれば、会社が健康保険料の半額を負担してくれます。
このように考えると、定年後も厚生年金に加入して働くメリットは大いにあるでしょう。
70歳以上になると、厚生年金保険の被保険者ではなくなるので、保険料を支払わずに済むようになります。但し、在職老齢年金の支給停止額については、70歳未満と同じ基準額や計算方法がそのまま適用されるのでご注意下さい。
減額が不満な人がいるかもしれませんが、現在支給されている年金の財源は、今保険料を納めている現役世代です。
在職老齢年金を受けるということは、支えられるばかりでなく、自分も支え手として年金制度に貢献している証でもあります。
遺族年金・障害年金
年金と聞くと、すぐ思い浮かぶのは高齢者が受給する「老齢年金」です。
しかし、公的年金の給付は、それだけではありません。
自分にもしものことがあったら、家族は…
加入者や受給者が亡くなると、一定の条件を満たせば「遺族年金」が残された家族を支えてくれます。
また、加入者が病気やケガで一定の障害を負うと、「障害年金」が支給されます。
全ての職業に共通する国民年金(基礎年金)と、会社員の厚生年金のそれぞれに、老齢・遺族・障害という3種類の給付があるのです。
納めている保険料には、遺族や障害の分も含まれています。
老齢年金と別に加入手続きを執る必要はありません。
遺族年金
万が一、夫が死亡した場合、その後の生活がどうなるのか…
こんな時は年金制度から遺族年金が支払われます。従来は夫が亡くなった場合だけが対象でしたが、2014年4月からは、妻が亡くなっても、残された父子世帯に支給されるようになりました。
先ず国民年金から、残された妻と子(18歳到達年度末日までの子供・又は20歳未満で1級・2級障害の子供)に「遺族基礎年金」が支払われます。
遺族基礎年金は、残された子供が18歳になるまで受給できます。
年金額は795,000円で、子がいる場合は人数に応じて加算されます。
第1子・第2子各228,700円、第3子以降76,200円。
死亡した夫が会社員だった場合は、遺族基礎年金に加えて「遺族厚生年金」も受給できます。
受給額は夫の老齢厚生年金(報酬比例部分)の4分の3です。
こちらは18歳未満の子がいなくても受け取ることができます。
妻自身の年収が850万円以上ある場合は受け取れません。
さらに、子が18歳到達年度末日を過ぎたら、妻が65歳になるまで「中高齢寡婦加算」が支給されます。
金額は596,300円。
妻が65歳になり自身の老齢基礎年金を受け取るようになると、中高齢寡婦加算がなくなり、代わりに「経過的寡婦加算」が支給されます。
こちらは妻の生年月日によって加算額が決まります。(1956年4月2日以降=支給なし)
妻が元会社員で老齢厚生年金を受給する場合は、先ずは自分の老齢厚生年金を受け取り、夫の遺族厚生年金がそれより高い場合、その差額を受け取れます。
但し、中高齢寡婦加算は死亡した夫が厚生年金に20年以上加入していなかった場合は受け取れません。
ちなみに、第1号被保険者の妻で、18歳未満の子供がいない場合は、遺族基礎年金は受け取れませんが、亡くなった夫が国民年金に3年以上保険料を納付していれば、その期間に応じて「死亡一時金」が12~32万円の範囲で支払われます。
また、夫が国民年金に25年以上加入していて、婚姻期間が10年以上あった場合には、60歳から65歳になるまでの間「寡婦年金」が受け取れます。
死亡一時金と寡婦年金両方は受け取れないので、どちらかを選びます。
未支給年金
年金は2か月に一度偶数月に振り込まれます。
年金は後払いなので、受給中の人が亡くなった場合、振り込まれる予定だった年金が未支給になります。
偶数月に亡くなった人は1か月分、奇数月に亡くなった人は2か月分の年金が未支給になります。
例えば、受給者が6月に亡くなった場合、死亡した6月までの年金をもらう権利があります。
しかし、6月に死亡届を出すと8月の年金振込がストップし、6月分が未支給となってしまうのです。
未支給年金は、生計を同じくしていた遺族(配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹・それ以外の3親等の親族)のうち優先順位の高い人から請求することができます。
故人との生計同一を証明できれば、別居や事実婚でも請求可能です。
また、繰り下げ待機中の人が年金を受給せずに亡くなった場合も、65歳から亡くなった日が属する月までの年金を遺族が請求できます。
障害年金
公的年金には、いざという時に使える生命保険のような機能もあります。
例えば、働き盛りの人が、ある日突然、病気やケガで仕事ができなくなったら収入の道が断たれ、家族も生活に困ってしまいます。
そんな時、頼りになるのが「障害年金」です。
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があります。
では、どんな仕組みなのでしょうか。
給付額は、公的年金に加入していた期間の長さに関係なく「定額」です。
障害が重い順に、1級と2級に分かれていますが、2023年度の場合、2級は年795,000円。
1級は、その25%増しの993,750円です。
子供がいる場合、18歳を過ぎた最初の年度末までは年金額に加算があります。
現在、2人目までは1人につき228,700円。
3人目以降は1人76,200円となっています。
障害基礎年金を受給する為には、次のような要件があります。
先ず、障害の原因となった病気やケガで初めて医師の診察を受けた日(初診日)に、65歳未満だったことが必要です。
但し、老齢基礎年金を繰り上げ受給している人は除きます。
次に、障害の程度が、障害等級1、2級に該当する状態であることも求められます。
身体障害者手帳の等級と必ずしも一致しませんので、注意が必要です。
障害等級は、初診日から1年6か月経った日、又はその間に症状が固定して治療の効果が期待できなくなった日の状態で決定します。
この時点で1、2級に該当しなくても、後で症状が悪化した時に申請すれば、受給できる場合もあります。
さらに、国民年金の保険料を一定以上の期間、きちんと納めていることも必要になります。
初診を受けた月の前々月までに、
- 納付すべき期間のうち、納めた期間と免除された期間の合計が3分の2以上ある
- 直近1年間に未納がない
のいずれかに該当する必要があります。
未納を続けている人は、受給できない恐れがありますので、注意が必要です。
尚、厚生年金に加入している会社員は、要件を満たせば、障害厚生年金も受給できます。
障害等級1~2級ならば、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金がもらえるだけでなく、配偶者がいる人には加給年金も上乗せされます。
また、18歳未満の子供がいれば、障害基礎年金に子の加算も上乗せされます。
さらに、国民年金加入者では保障されない障害等級3級にも年金が支給される他、障害厚生年金に該当しない軽い障害でも、最低1,172,600円の一時金が支給されます。
国民年金基金
自営業者は、国民年金の第1号被保険者となり、老齢年金は国民年金からのみとなります。
40年分の保険料を支払ったとしても、受け取れる年金は年額777,800円(2022年度価格)で、月額約65,000円。
仮に夫婦とも満額であっても月額約13万円と、公的年金だけでは老後の生活は厳しいと言えるでしょう。
また、学生時代を含めて、40年間全ての保険料を支払っている人は稀です。
もし30年しか払っていなければ、4分の3しかもらえないことになります。
会社員が加入している厚生年金は、国民年金の上乗せとなり、保険料も事業主との折半で支払っています。
しかも、妻の収入が130万円未満であれば、妻分の国民年金保険料・健康保険料・介護保険料も掛かりません。
このように考えると、自営業者は、上乗せの年金を自分でプランニングする必要があるのです。
国民年金基金制度は、会社員との年金額の違いを解消する為に創設された、国民年金法の規定に基づく公的な年金です。国民年金とセットで、自営業者など第1号被保険者の老後の大きな柱となります。
国民年金基金はiDeCoと併用することもでき、掛け金の上限額は両方合わせて月々68,000円、年間では816,000円となります。
これらが全額、所得控除の対象となり、掛け金を支払っている間は所得税や住民税が軽減されます。
加入した年齢が若いほど、掛け金も安く受取額も多くなる仕組みのため、50代以降に加入しても、お金を増やす効果はあまりありません。
給付のタイプは「終身年金2種類」と、5~15年の給付期間が決まった「確定年金5種類」の計7種類あり、1口目に必ず終身年金を選択して、2口目以降7種の中から自由にタイプを組み合わせます。
但し、確定年金の掛け金の合計額は終身年金の合計額を超えないことが条件となっています。
確定年金はいずれも、年金受給前・保障期間中に亡くなった場合、遺族に一時金が支給されます。
2013年4月以降、国民年金基金の加入対象者が拡大され、60歳以上65歳未満で国民年金に任意加入している人も加入できるようになりました。
例えば、夫婦のどちらか、又は両方が学生時代や結婚後などに国民年金の未加入期間があるようなら、60歳で定年退職した後に国民年金に任意加入し、更に国民年金基金で老後資金を増やすというのも選択肢の一つです。
尚、国民年金基金はいったん加入すると途中で任意に脱退や退会ができません。
離婚時の年金分割
共働き夫婦であっても、女性より男性の方が収入の多いケースが圧倒的。
そういう人や専業主婦が離婚をしたら、老後の生活が成り立たなくなってしまいます。
離婚で問題になるのが財産分与。
熟年離婚が増えた今、夫の年金を巡って争うことにもなりかねません。
そこで、知っておきたいのが「年金分割」です。会社員や公務員である夫(妻)と、その妻(夫)が離婚すると年金を受け取る権利を分割できます。
年金分割は、離婚後の夫婦間の年金格差を少なくする為に、婚姻期間中の夫婦の厚生年金を合算して、多い方から少ない方へ分割する制度です。
老後の年金は、国民年金と厚生年金の2階建て。
国民年金は夫婦ともに加入していますから、自分の年金は自分のものというシステムです。
従って、年金の離婚分割は、厚生年金の2階部分だけを分けます。
簡単に言うと、結婚している期間の二人の厚生年金を足して、最大で半分ずつ分ける仕組みです。
独身時代に働いた期間は対象外。
さらに、結婚している間、妻が社会保険に加入している場合は、妻の2階建て部分も考慮して分割をします。
「離婚をしたら、夫の厚生年金の全てが分割される」と考えている人もいますが、これは誤解です。離婚後の生活設計にも関わることなので、注意が必要です。
分割には次のようなものがあります。
- 合意分割
- 3号分割
合意分割は、2007年4月1日以降に離婚した夫婦が対象で、婚姻期間中の厚生年金保険の支払額が多い人から少ない人へと分けられる制度。
分割の割合は当事者間の合意で決定し、2人で納めた厚生年金の支払額が最大半分(50%)ずつになるまで分割できます。
離婚に至るには、それなりの事情があって円満な話し合いをするのが困難な場合もあるでしょう。
夫婦間で話し合いができない時や同意がない場合は、妻か夫どちらか一方の申し立てにより、家庭裁判所が分割割合を定めることになります。
3号分割は、配偶者の一方が専業主婦など第3号被保険者である場合の制度です。
専業主婦は厚生年金がないため、配偶者と離婚すると、もらえる年金額が非常に少なくなってしまいます。
しかし、一緒に生活をしている間の保険料は、夫婦が協力して稼いだお金から支払っていたと言えます。
そのため、2008年4月以降、専業主婦などが夫と離婚して3号分割を請求した場合は、相手の同意に関係なく、自動的に分割されます。
但し、自動的に分割されるのは、2008年4月以降の婚姻期間の保険料納付記録のみ。
それ以前の厚生年金は対象外です。
合意分割と3号分割は併用できるため、2008年4月までは合意分割、それ以降は3号分割という方法もあります。
どちらも離婚から原則2年以内に請求が必要です。
年金分割を受ける為には、正式に結婚していなければならないわけではありません。
しかし、一緒に暮らしているだけでは認められず、厚生年金の第3号被保険者として申請しておく必要があります。
気を付けたいのが、年金を受け取れる時期。夫が年金をもらい始めた時ではなく、自分が年金をもらえる年齢になってからです。
分割した年金は、60代前半に繰り上げてもらうことも、66歳以降に繰り下げてもらうことも自由です。
裁定請求
公的年金は、「受給年齢になったら、自動的にもらえる」と思っている人も意外に多いのですが、そうではありません。
「払って下さい」と請求をしなければもらえません。年金を請求することを「裁定請求」といいます。
自分の支給開始年齢を覚えておくことは大切ですが、その年齢に達する3か月程前に、お知らせと共に「年金請求書」が送られてくるので、この通知が届いたら、支給開始の合図。
年金請求書には、住所・氏名・生年月日・性別・基礎年金番号・年金加入記録が予め印字されているので、誤りがないかを確認します。
印字内容が異なっている場合は、二重線を引いて訂正しますが、別途手続きが必要になるため、管轄の年金事務所に問い合わせましょう。
年金請求書の他に、戸籍謄本、受取口座の預金通帳といった必要書類などを準備する必要があります。
年金受給に必要な書類は年金受給者の年金加入状況などによって異なるので、自分が用意すべき書類を年金請求書に同封されている案内で確認し、準備しましょう。
年金請求書に必要事項を記入し、添付書類を揃えたら、市区町村の国民年金の窓口又は最寄りの年金事務所、各地の年金相談センターに提出します。
提出先は加入していた年金制度によって異なります。
年金請求書を提出すると、1~2か月で「年金証書・年金決定通知書」が届きます。重要な書類なので大切に保管しましょう。
実際に年金が振り込まれるのは、更に1~2か月先になります。
年金は偶数月の15日に、前月と前々月の分が振り込まれる後払い方式です。
尚、国民年金のみに加入していた人は、65歳になる3か月前に手続きを行います。
- 年金を受け取るまでの流れ -
- 年金請求書とリーフレットが送られてくる (受給開始年齢になる3か月前)
- リーフレットに従い、必要書類を揃え、年金請求書に必要事項を記入する
- 年金支給開始年齢を迎えたら、年金請求書を提出する
- 日本年金機構が年金請求書を提出した人の受給権を確認
- 年金証書と年金決定通知書が送られてくる (年金請求書を提出してから約1~2か月後)
- 年金の振り込みがスタート (年金証書の到着から約1~2か月後)
まとめ
年金や社会保険は改正を重ねた結果、仕組みが複雑で、よく分からないという人が多いようです。
老後の資金計画を考える上では、老後の主収入となる年金についても、しっかり把握しておく必要があるでしょう。
- 日本の年金制度は「3階建て」になっています
- 加入している年金は職業によって異なります
- 自分の加入している年金制度を確認しておきましょう
- 会社員は2種類以上の年金が受け取れます
- 会社員は高収入ほど年金受取額がアップします
- 公的年金からは、3種類の年金が受けられます (老齢・障害・遺族)
- 老齢年金をもらうには、原則として年金に10年以上加入している必要があります (受給資格期間)
- 年金の見込み額は「ねんきん定期便」に記載されています
- ねんきんネットでは、様々な試算も可能です
- 厚生年金に加入すると当面の年金が減額されることもあります (在職老齢年金)
- 短時間勤務や自営業は減額されません
- 厚生年金には扶養手当に当たる「加給年金」があります
- 配偶者が65歳になると「振替加算」に切り替わります
- 年金の受給開始時期は、早めたり遅らせたりできます (年金受給の繰り上げと繰り下げ)
- 繰り上げ・繰り下げで年金受給額は異なります
- 繰り上げや繰り下げの損得は本人の寿命次第です
- 長生きすると繰り上げは損、繰り下げは得になります
- 年金受給の繰り上げと繰り下げは慎重に判断を
- 障害状態になった場合は「障害年金」を受給できます (要件あり)
- 夫(妻)が亡くなったら「遺族年金」を受給できます (要件あり)
- 本来もらえた年金を遺族が代わって請求できます (未支給年金)
- 自営業なら「国民年金基金」の加入を検討しましょう
- 会社員が加入する厚生年金には、離婚した時に夫婦で年金を分け合う仕組みがあります (離婚時の年金分割)
- 離婚時の年金分割は二種類あります (合意分割・3号分割)
- 年金は自分で請求しなければもらえません
- 支給開始年齢になったら「年金請求の手続き」を
本記事のデータは、2023年10月現在の数字です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。