そもそも信託って何…?
どんな財産を信託することができるのか?
こんな疑問・悩みを解決します!
- 家族信託って何?
- 商事信託との違い
- 家族信託の仕組み
- 家族信託に係る人
- 家族信託の活用例
- 家族信託の手続き
そもそも信託とは?
信託という言葉を聞いて、皆さんはどのようなイメージを持ちますか?
恐らく、信託銀行や投資信託といった、資産運用に関するものを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
信託業法上、信託の引き受けを営業として行う場合には免許が必要とされ、これを「商事信託」と言います。
一方、利益を得る目的ではなく、特定の1人から信託を引き受けるような場合は、受託者(財産を預かって管理・処分する人)に信託業の免許は必要なく、これを「民事信託」と言います。
信託法の改正により可能となったこの信託制度により、家族に財産を預けて、財産管理や資産承継を円滑に行う「家族信託」ができるようになりました。
家族信託の説明を行うために、先ず「信託」の説明をしておきましょう。
信託とは、「委託者」(財産の所有者=預ける人)が、「受託者」(預かる人)に財産を移転し、受託者は委託者との約束で決めた一定の目的に従ってその財産の管理・処分等をし、その財産から生じた利益は「受益者」(利益を受ける人)に配当する仕組みです。
具体的に言うと、委託者の不動産を、受託者が預かって運用又は処分をし、それによって得た現金を受益者(委託者と同一でも良い)に渡すというイメージです。
信託で様々な悩みを解決できるのは、財産の扱い方に、他にはない特徴があるからです。
財産の所有権は「権利」と「名義」からなります。
財産を管理・処分する義務を果たすために必要なのが名義で、利益を得る資格が権利です。
- 権利 … 財産を使用する権利や、運用して得られた利益を得る権利(受益権)
- 名義 … 財産を管理・運用・処分する時に必要な肩書
相続や贈与の場合、所有権全体が一度に移転します。
信託なら、財産の所有権を権利と名義に分けて、別の人に持たせたり、段階的に移動させることができます。
これにより、判断能力の低下に備えたり、相続対策としての財産管理が可能になります。
信託財産には制限がありません。金銭や不動産など、負債以外何でも信託できます。受託者や受益者も、自由に決められます。
信託の登場人物
信託には、3つの役割が登場します。
財産を託する「委託者」、財産を託されて管理・運用する「受託者」、財産を利用したりその収益を得る権利を持つ「受益者」です。
財産を託す人のことを「委託者」、託された人のことを「受託者」、託された財産から出た利益を受ける人を「受益者」と言います。
- 委託者 … 信託を設定し、財産を託す人
- 受託者 … 財産を託されて管理し、利益を受益者に渡す人
- 受益者 … 財産から生じる利益を受ける権利がある人
委託者
信託の方針を決めるのは、財産の所有者であり、守りたい人(受益者)や目的がある委託者です。
信託の目的と内容を設定し、財産を受託者に託します。
基本的には、受託者や受益者は自由に決めることができます。
受託者の専任・解任権を持つ他、信託の目的が反映されているかどうかを確認するために、受託者に信託状況の報告を求めることができます。
財産を持つ人ならば誰でもなることができます。
受託者
受託者は、委託者が財産を託し、委託者の目的や願いに沿って、財産を管理・運用する役割です。
必要な時に、受益者に信託財産の利益を提供します。
委託者が信頼する人を選ぶのはもちろん、受託者には信託法で定められた義務があり、忠実な財産管理が行われる仕組みになっています。
さらに、信託の目的は受益者に利益を与えることであるため、受益者と良好な関係の人を選ぶのがベストです。
- 受益者の利益に反することをしてはいけない … 信託財産を受託者自身の財産としたり、第三者に有利な条件で売却したりすることは禁止されています
- 自分の財産と分けて管理する … 受託者個人の財産と、委託者から託されている信託財産を明確に分けて管理しなければなりません。預金の場合は信託専用の口座を作ります
- 複数の受益者がいる場合は全員を公平に扱う … 原則は、財産を運用して得られた利益は受益者全員に等しく分配します。信託契約の中に特別な定めをしている場合は、それに従って分けます
故意に財産を減らしたり、勝手に譲渡した場合は、受託者は元に戻す責任があります。原則として、受託者は受益者と兼務できません。
受益者
受益者は、財産から生じた利益を得る権利がある人です。
その権利を「受益権」と言います。
例えば、信託財産が不動産の場合は、そこに住む権利、家賃収入を得る権利、売却した時の収益を得る権利などのことです。
委託者同様、受託者に対して、信託状況の報告を求めることができます。
信託法で定められた規定によって、受益者の権利は守られます。
家族信託の仕組み
自分で財産管理をするのが難しくなってきたら、財産管理を他の人に依頼すると安心です。
家族信託は、信頼する人(主に家族)に自分の財産を託し、適切に管理してもらうものです。
信託契約の内容は当事者同士で自由に決めることができます。
そのため、他の制度では思い通りにならないケースにも対応できます。
また信託は、信託法に従って行われるため、民法で定められている遺言や相続では解決できない問題も解決できます。
財産の一部を契約によって切り離し、家族などに託する制度が「家族信託」です。今後の財産管理をする上で家族信託が良いと言われる理由の一つは、信託財産が独立して管理されるため、他の制度の影響を受けないということです。
家族信託は、他の制度と併用するのが一般的です。
例えば、特定の財産の管理は家族信託、今後の生活費などの管理は任意後見制度、それ以外の財産の承継や思いを伝えるには遺言書というふうに使い分けます。
家族信託は、始期も終期も自由です。委託者の判断能力や生死に関わらず信託契約は続きます。
商事信託との違い
信託という仕組みを分類する方法として、「民事信託」と「商事信託」というものがあります。
この2つの違いは、受託者が、財産を託されて管理・運用することを営利目的で行なっているか否かという点です。
信託銀行等が行なっている不特定多数の人を相手とした営利目的の信託は「商事信託」と呼ばれます。
信託を営利目的の事業として行うには、信託業法の免許・登録を受けた信託銀行、信託会社しかできません。
「民事信託」は、財産を預かる受託者が営利目的として引き受けるものではないものを言います。
そして、民事信託の中でも、財産を預かる受託者が財産を預ける委託者の親族である場合を「家族信託」と言います。
- 商事信託 … 金融機関や信託会社に財産を託し、運用して増やしてもらいます。その見返りとして「手数料」を支払います
- 家族信託 … 信頼できる人に財産を託し、自分の財産、家族、生活を守る目的で管理してもらいます。信託契約の当事者同士の信頼関係を前提として成り立ちます
家族信託の一例
では、家族信託の例を挙げてみましょう。
父親が所有する収益物件を長男に信託した場合、長男は父親の収益物件を管理しながら、父親に収益物件から得られる利益を渡すことができます。
家族信託契約を結ぶと、信託財産の所有権は委託者から受託者に移転します。
しかし、信託財産から生じる経済的価値は受益者のものですので、税務上は、原則として受益者が信託財産を有しているものと見なします。
そのため、相続税や贈与税は、受益権の移転があった場合に課せられることになります。
父親が、自分が元気なうちに財産の名義を長男に移しておきたいが、その財産を自分の利益のために使ってほしいという場合、自分(委託者)が受益者となり、長男を受託者にすることにより、老後の資産管理を安心して長男に任せることができます。
信託契約により財産の名義は長男に移転しますが、受益者は父親ですので、贈与税は掛かりません。
また、信託契約の締結と同時に効力が発生するため、財産管理を始めるまでの空白期間がなく、迅速に対応できます。
事情に合わせて、契約内容を定期的に見直しすることもできます。
尚、万が一、父親の意思能力が衰えて成年後見人が選任された場合でも、信託の定めに従った財産管理であれば、長男はその都度、成年後見人の同意を得ることなく財産の管理ができます。
家族信託では、契約に信託財産の帰属を定めることができます。
例えば、自分の死後、信託契約が終了した時の財産の取得者を長男にするとしておけば、財産を円滑に相続させることができるでしょう。
また、家族信託により、事実上の相続の順番を定めることもできます。
生前贈与や遺言も、ある程度は財産の承継者を指定しておくことができますが、いったん所有権の移転した財産の次の承継者まで指定することはできません。
しかし、家族信託であれば、例えば「自分の死後は受益者を妻」とし、「妻の死後は長男を受益者」にするというように、次の承継者を指定することが可能です。
その意味では、遺言よりも相続人の思いをより強く反映できるのかもしれません。
家族信託でできること・できないこと
- 家族信託でできること -
- 面倒な不動産管理など、家族に名前を変えて管理や処分を任せることができる
- 目的に従っていれば、託された人が自己の判断で管理や処分などを行うことができる
- 財産を所有される人とそこから生じる収入を受ける人を分離することができる
- 二次相続や三次相続を考えて遺言書以上のことが指定できる
- 託す人と託される人との間で契約内容を個別に決定ができる
- 託したことを、信託の登記をすることで第三者へ公示できる
- 財産を破産から守ることができる
先述したように、家族信託は財産の管理や承継について、自分が生きているうちから亡くなった後まで、比較的自由に決めておくことができます。メリットの多い制度ですが、問題点がないわけではありません。
- 家族信託でできないこと -
- 託す人の判断能力が既に低下していたら、家族信託自体はできない
- 財産を託すことが中心だと、成年後見人のような適切な身上監護ができない
- その託す行為自体に相続税などの節税効果を生じさせることはできない
- 収入の生じる不動産を信託し損失が生じた場合には、他の所得と相殺ができない
- 遺留分減殺請求を防止することができない
- 託された人は不特定多数の人から業として請け負って報酬を頂くことはできない
- 託された人の地位をその相続人が相続することができない
信託契約の開始と終了
信託の設定方法
先ず、信託には、次の3つのパターンがあります。
- 契約信託
- 遺言信託
- 自己信託
信託の設定方法は、契約書、遺言書、信託宣言の3つがあります。契約書が一般的です。それでは1つずつ見ていきましょう。
契約信託
契約信託とは、委託者と受託者が「信託契約」を結ぶことで、信託を開始する方法です。
信託の目的、財産の管理・処分方法に関する取り決めをし、双方が合意します。
家族信託は、当事者同士の合意のみで契約が成立します。
しかし、信託契約が長期間になることもあり、その間に相続が起こって遺産分割協議をすることになった場合、契約書で信託契約の存在を証明する必要があります。
通常は「信託契約書」を作成します。契約書による設定なら、契約内容、契約開始時点、契約の終了事由を、契約者同士で自由に決めることができます。
具体的には、以下のようなことを定めていきます。
- 信託の目的
- 信託する財産
- 信託財産の管理・運用・処分方法
- 信託の当事者(委託者・受託者・受益者)
- 信託監督人・受益者代理人
- 受益権の内容
- 信託の変更に関する定め
- 信託の終了
- 信託終了後の財産の帰属先
これらは、あくまで信託契約で定める事項の一部です。家族信託の契約書にひな型はなく、各家庭に合わせて作成されます。公正証書か、公証人の宣誓認証を受けた文書が最適です。
さらに、信託財産が不動産である場合は「登記」も必要です。
尚、何も条件を付けなければ契約を締結した日から信託はスタートしますが、条件を付けることでスタート時期を調整することも可能です。
例えば、「委託者が認知症になり、後見人が就任した時から信託を開始する」といった条項を、契約書の中に盛り込みます。
但し、信託契約の目的が達成されたり、信託財産や信託の登場人物に著しい不足があり、信託を続けられなくなると、信託は終了します。
信託契約が終了した後は、財産の清算、余った財産の分配などの処理をします。
遺言信託
次に、遺言による信託です。
こちらは、遺言の中に信託する旨を記し、遺言の効力が発生した時(死亡時)に信託をスタートさせるものです。
遺言書で指定された財産を信託財産として、その管理や処分をするよう依頼します。
但し、遺言信託であっても、契約信託と同様に開始時期に関する条件を付けることはできます。
遺言書は、「下記の財産は、長男〇〇に相続させる」などと記すのが一般的ですが、遺言信託の場合は「委託者である私が亡くなったら、信託の効力を発生させ、受託者に財産を託します」と記すイメージです。
受託者に指定された人が拒否すると、家庭裁判所によって選任された人が受託者となるため、当初の目的を果たせるとは限りません。
自己信託
これまで、委託者と受託者は別人という前提で信託のお話をしてきましたが、この自己信託とは、文字通り「委託者=受託者」という構造になります。
先ず、自己信託は、信託宣言という行為でスタートします。
自分1人ですから契約はできませんし、遺言を書くわけではありません。
だからこそ、「この財産を信託財産とする」という宣言を行うのです。
この信託宣言は、公正証書で行います。
自分の財産の一部を、自分が受託者となって区別して管理することを言います。他者との契約ではなく、公正証書による「信託宣言」を行うことで信託が開始し、自己信託をした状態となります。
では、どのような場合に利用するのかというと、「適当な受託者が見つからないので、一先ず自己信託しておく」というケースや、「不動産を受益権化して贈与する」といった場合などが挙げられます。
信託の終了
先ず、信託が終了する理由は、以下のように定められています。
- 信託の目的を達成した
- 信託の目的を達成することができなくなった
- 委託者と受益者が、信託を終了する旨で合意した
- 信託財産が不足したために受託者が信託を終了した
- 信託財産について、破産手続きが開始された
- 委託者が破産手続き開始決定を受け、信託契約が終了又は解除された
- 信託が併合された
- 信託契約によって任意で決めた条件が発生した
- 信託法で定められた信託の終了事由に該当する
- 受託者が全ての受益権を取得して1年が経過した
- 受託者がいない状態が1年以上経過した
- 遺言によって設定された受益者も信託監督人もいない信託が1年以上経過した
これらの事由が起こり、信託が終了すると、信託財産に対する債務の弁済や残余財産を予め定めておいた者等へ帰属させるなど一連の手続きを行います。
これを「信託の清算」と呼びます。
まとめ
信託とは、委託者が財産を受託者に預け、運用・処分等の管理をしてもらい、受益者に利益の給付を行うことです。
信託銀行などに財産を信託しておけば「委託者と財産は切り離される」ため、例えば、悪徳業者が委託者に詐欺的行為を行おうとしても、受託者が首を縦に振らない限り財産は防衛されます。
この信託を家族間で行うのが「家族信託」となります。
自分の老後や介護時に備え、保有する不動産や預貯金などを信頼できる家族に託し、管理・運用・処分を任せれば、最も安心できる信託が行われます。
家族信託は家族間で財産のことを話し合い、委託者の死後、財産をどう分配するかなどのことも決めることができますので、死後の分配トラブルを未然に防ぎます。
相続の争いの多くは、民法の規定が、その家庭の家族構成や財産状況に合わないために起こります。家族信託なら、各家庭に合った信託契約を設定できます。
そして、皆が納得すれば契約を交わし、受託者や受益者を設定します。
家族に信託銀行になってもらった形ですね。
家族信託のメリットですが、先ず、財産管理が委託者の判断能力に影響されないということが挙げられます。
また、家族信託には遺言効果があり、次の後継者だけでなく、次の次の後継者以降を決めることもできます。
これは、遺言ではできません。
さらに、信託契約全般に関わるメリットは、財産の名義のみを先に変更し管理を任せても、即時には課税されないことです。
贈与税の課税を気にせず、財産管理を他の人に託することができます。
この他、信託特有の仕組みや規定があり、自分の願いに沿って財産を管理したり、相続争いを回避することに効果を発揮します。
財産を持つ人がボケたり、また死後の相続争いが不安ならば、家族信託が有効です。財産を持つ人の負担を減らしつつ、様々な条件を指定することもできます。
- 不動産の場合、信託が設定された旨の登記を行うため、登録免許税などの費用が必要
- 受託者が適切に管理しない場合は、トラブル等になる場合も…
- 信託の内容によっては「贈与税」が掛かる
- 信託が始まると、委託者は自由に財産を処分できなくなる など
契約書を交わす際は、家族の希望を反映して作り、この後、信託財産を管理するための口座を作ったり、不動産の場合は登記の手続きを行なったりします。
契約の内容によって必要な種類が異なりますので、法務局などに確認しながら進めるのが良いでしょう。また、弁護士、司法書士などの力を借りながら契約書を作成することも、トラブルを避けるために有効です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。